5
「事情はわかった。即急に調べてくれて助かった」
俺は、一通りの事情を狩川から聞いて、電話を切った。
「分かりました? まひと様」
瀬本は、バックミラーに映る神妙な俺の顔色が気になったのか、きいてきた。
「ああ。前からいろいろ事情があると思ってはいたけど」
俺は、自分の胸奥に抱いているゆみの肩を掴み、ゆっくりと体を離した。
俯き震えている体。
半ば長い睫毛を伏せる瞳に、一筋の影を感じている。
「ユミリア、いや、今はゆみか。確か父親の安全なアメリカの事務所から、母親の経営する日本の黒い噂の絶えない事務所へ売られたらしいな。どうして言ってくれなかった? 俺達つきあってただろうが」
「出来るはずないです……」
「俺のことはきいていただろう? それなりの名家の子息って」
「迷惑かけられるはずないですって。父さんや母さんの言うとおり日本へ行けば、弟の病気も治る。家族のためならば、私にとって当たり前のことで」
ゆみの口元が震え、うつむいたまま顔を上げようとしなかった。
「そりゃあそうだけど。その後過密スケジュールに、体を壊して歌えなくなったってきいている。どうしてまだ日本にいる? 性格のきつい母親って、俺は調べたから知っているけど?」
俺は、ゆみの事情は知っていて、痛ましく顔を歪めて言う。
ゆみは、俳優で売れずにいた母親に少なからず虐待されて育った。
生まれたての弟だけ連れて家を出て行った、貧乏芸人である父親。
一年後、父親は日本へ来た時ゆみを引き取ったという、彼女にはもう一つの過去があった。
「父親との連絡は、ずっと前から途絶えていたから、私にはもう行くところはなかったのです」
「なんで俺に言わない? 今回だってせっかく巡り会ったのに。頼ってもくれないなんて」
苛立ちを押さえきれず、俺はぼやいた。
「あなたはかなえの見合い相手で、頼るなんてできるはずないです。それに私のことは忘れたのでは? かなえと見合いするくらいだから」
「ゆみは交通事故で死んだって、聞かされていたからだ。そうじゃないと、俺は諦めるなんてしない」
俺は、むっとして目をつり上げる。
「……もう忘れてください。私はあの頃のゆみじゃ」
「他に好きな子が? 例えば今日の」
「彼らは弟みたいなものです。それに男の子って苦手なので」
ゆみがはっきりと言うので、俺は胸を撫で下ろしていた。
「事情はわかった。即急に調べてくれて助かった」
俺は、一通りの事情を狩川から聞いて、電話を切った。
「分かりました? まひと様」
瀬本は、バックミラーに映る神妙な俺の顔色が気になったのか、きいてきた。
「ああ。前からいろいろ事情があると思ってはいたけど」
俺は、自分の胸奥に抱いているゆみの肩を掴み、ゆっくりと体を離した。
俯き震えている体。
半ば長い睫毛を伏せる瞳に、一筋の影を感じている。
「ユミリア、いや、今はゆみか。確か父親の安全なアメリカの事務所から、母親の経営する日本の黒い噂の絶えない事務所へ売られたらしいな。どうして言ってくれなかった? 俺達つきあってただろうが」
「出来るはずないです……」
「俺のことはきいていただろう? それなりの名家の子息って」
「迷惑かけられるはずないですって。父さんや母さんの言うとおり日本へ行けば、弟の病気も治る。家族のためならば、私にとって当たり前のことで」
ゆみの口元が震え、うつむいたまま顔を上げようとしなかった。
「そりゃあそうだけど。その後過密スケジュールに、体を壊して歌えなくなったってきいている。どうしてまだ日本にいる? 性格のきつい母親って、俺は調べたから知っているけど?」
俺は、ゆみの事情は知っていて、痛ましく顔を歪めて言う。
ゆみは、俳優で売れずにいた母親に少なからず虐待されて育った。
生まれたての弟だけ連れて家を出て行った、貧乏芸人である父親。
一年後、父親は日本へ来た時ゆみを引き取ったという、彼女にはもう一つの過去があった。
「父親との連絡は、ずっと前から途絶えていたから、私にはもう行くところはなかったのです」
「なんで俺に言わない? 今回だってせっかく巡り会ったのに。頼ってもくれないなんて」
苛立ちを押さえきれず、俺はぼやいた。
「あなたはかなえの見合い相手で、頼るなんてできるはずないです。それに私のことは忘れたのでは? かなえと見合いするくらいだから」
「ゆみは交通事故で死んだって、聞かされていたからだ。そうじゃないと、俺は諦めるなんてしない」
俺は、むっとして目をつり上げる。
「……もう忘れてください。私はあの頃のゆみじゃ」
「他に好きな子が? 例えば今日の」
「彼らは弟みたいなものです。それに男の子って苦手なので」
ゆみがはっきりと言うので、俺は胸を撫で下ろしていた。


