溺愛している娘は俺の宝物だった

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「他に何かあるみたいですね?」

 運転席にいる瀬本が、口を挟んできた。

「そう。だから知りたい」

「白井ゆみさん、事情の全て話したらいかがですか? そうじゃないと納得しないと思いますよ? まひと様は」

「……」

 ゆみは、下唇を噛みしめたまま何も言わず、小刻みに体を震わせている。

 もどかしいゆみの姿に、俺は切なく響く胸の痛みと、苛立ちを感じていた。

「君の事情を知ったからといって、俺は嫌いになんてならない」

 ゆみは、俺の歯痒く掠れた声に、意を決したのか顔を上げる。

「……母の会社の芸能事務所の経営が良くなく、庇護されているんです。遠縁の桐浜家に」

「よくあることでは? 遠縁ならばそんなこと」

「そうかもしれないけど。だから私には桐浜家には恩があって」 

 ゆみは、自嘲気味に口元を歪める。

「桐浜かなえちゃんの見合い相手だから? でも俺を断ってきたのは彼女だろう?」

「そうですけど。でもかなえのお父様やお母様が珍しく無理地している見合いだったから、私が取ってしまったらまずいのでは?」

「そんなことは関係ない。俺の勝手で君がいいことを上手く伝えておく」

「……だから、私はあなたにふさわしく」

 俺は、否定するゆみに苛立ち、自分の胸奥へかき抱いた。

「そんなに、俺のことが嫌なわけ?」

「だから、そうゆうんじゃないんです」

 ゆみは、もどかしそうに掠れた声でぼやく。

「俺に任せなって」 

 全面的に嫌われているわけじゃないが、何か陰りがある。

 自分の中に潜んでいるゆみの記憶を感じ、俺ははぎゅっと力を込めてしまう。

「私は、きっとあなたが思うような子ではないのです……」

「それは俺が決めることだって」

「だから」 

 またもや俺を否定してくる歯切れの悪いゆみの声に、酷く苛立っていた。

 この胸に抱いて告白しても、通わない心。

 困惑を滲ませ、俺を拒否する言葉。

 ゆみをどうしても手ばなせない、波打つ鼓動をは本物。

 俺は、それを苛立ち気味ながら、如実に感じている。

「お互い落ち着くためにも、屋敷で連絡を待ってみませんか? 本日中にでも、彼女が言っている事情はわかるとは思います」

 瀬元は、緊迫する二人の会話に口を挟んできた。

「そうだなあ。そうするか」

 その時、コートの左ポケットにある携帯電話が震え、俺はゆみを胸奥に抱いたまま応対する。

「……はあ? 白井ゆみじゃなくて、ユミリア・アリオル・ヘイゲール? 本気で言ってるのか?」

 その名に、俺の胸奥にいるゆみの体がぎくりと大きく震えた。