2
「この子、ですか?」
はりのある少し高めの声が、運転席から聞こえてくる。
俺の胸元にすっぽりと抱かれ、ぼんやりしていたゆみが微妙に肩を揺らす。
「そう」
俺は、体を離して戸惑い見つめるゆみの瞳を覗き込むように見ている。
「あの……?」
俺は、柔らかな両頬を包み込むように抱いて、精悍な頬を傾ける。
愛らしいゆみの、何か言いたげな顔。
どうしても心奥から滲んだ想いが堪えきれない俺は、そっと唇へ触れた。
「んっ……」
ゆみは、思わず目を閉じた。
「……まひと様、どちらへ?」
黒いスーツの中に精悍な体を包み込み、銀フレームの眼鏡の中で怜悧に光る二つの眼。
運転席でバックミラー越しに、俺とゆみを見つめていた。
「俺のマンション。そこできちんと仕事もするならいいだろう?」
俺は顔を上げ、乱れたゆみの髪を優しくすいている。
「仕事をきちんとしてくれるなら」
俺の頼れるボディガード兼片腕の瀬本義和は、ぽつりと言う。
「あの、杉本さん」
ゆみは、我に返ったのか、俺の緩んだ腕をほどいて離れた。
「ん?」
「私のこと、まだ調べていないのですか?」
「会って一日しかたってないから、まだだけど?」
「なら、私があなたにふさわしくないこと、わかっていませんよね?」
自分を卑下するゆみの瞳の翳りに、俺は怪訝そうに顔を曇らせる。
「それは、どういう意味?」
「私が、あの高級住宅地とは不釣り合いということ、今はきっと分かっていないみたいですね。この先私と関わるのは、やめたほうがいいですよ」
「そんなことは、関係ない」
俺は、ゆみの言いぶんに眉根を寄せながらも首を横に振る。
「私の家はわけありで、かなえの家に庇護して貰っているのです」
「それで、かなえちゃんに頼まれて代役を?」
「そうです。でもまさかこんな展開になるなんて、私もかなえもびっくりしてて」
ゆみは、半ば長い睫毛を伏せてしまう。
揺れる長い睫毛の下に、憂いのある深緑かかった黒い瞳。
やはり俺には見覚えがあり、胸に突き上がる想いを感じていた。
「それでも俺は、君がいい」
「でも」
「今朝、時間があったから君に会いに行ったんだ。会社の通り道ってこともあるけど」
「え?」
「男の子とじゃれていた。かなえちゃんが邪魔しなきゃ、車から降りていた」
「……」
俺は、苦々しく口元を歪める。
切なげに瞳を曇らせるのを、ゆみは固唾をのんでいる。
「俺は、君を他の誰にも渡したくないんだ」
それでもゆみは、伸びてきた俺の腕を手早く払った。
「やめた方がいいです。私なんて」
「……俺が嫌?」
「そういうのじゃなくて、だから……」
もどかしそうに、ゆみは歯切れの悪く呟くように言う。
ゆみは、俺に視線を合わせずに、首を横に振ってしまった。
「この子、ですか?」
はりのある少し高めの声が、運転席から聞こえてくる。
俺の胸元にすっぽりと抱かれ、ぼんやりしていたゆみが微妙に肩を揺らす。
「そう」
俺は、体を離して戸惑い見つめるゆみの瞳を覗き込むように見ている。
「あの……?」
俺は、柔らかな両頬を包み込むように抱いて、精悍な頬を傾ける。
愛らしいゆみの、何か言いたげな顔。
どうしても心奥から滲んだ想いが堪えきれない俺は、そっと唇へ触れた。
「んっ……」
ゆみは、思わず目を閉じた。
「……まひと様、どちらへ?」
黒いスーツの中に精悍な体を包み込み、銀フレームの眼鏡の中で怜悧に光る二つの眼。
運転席でバックミラー越しに、俺とゆみを見つめていた。
「俺のマンション。そこできちんと仕事もするならいいだろう?」
俺は顔を上げ、乱れたゆみの髪を優しくすいている。
「仕事をきちんとしてくれるなら」
俺の頼れるボディガード兼片腕の瀬本義和は、ぽつりと言う。
「あの、杉本さん」
ゆみは、我に返ったのか、俺の緩んだ腕をほどいて離れた。
「ん?」
「私のこと、まだ調べていないのですか?」
「会って一日しかたってないから、まだだけど?」
「なら、私があなたにふさわしくないこと、わかっていませんよね?」
自分を卑下するゆみの瞳の翳りに、俺は怪訝そうに顔を曇らせる。
「それは、どういう意味?」
「私が、あの高級住宅地とは不釣り合いということ、今はきっと分かっていないみたいですね。この先私と関わるのは、やめたほうがいいですよ」
「そんなことは、関係ない」
俺は、ゆみの言いぶんに眉根を寄せながらも首を横に振る。
「私の家はわけありで、かなえの家に庇護して貰っているのです」
「それで、かなえちゃんに頼まれて代役を?」
「そうです。でもまさかこんな展開になるなんて、私もかなえもびっくりしてて」
ゆみは、半ば長い睫毛を伏せてしまう。
揺れる長い睫毛の下に、憂いのある深緑かかった黒い瞳。
やはり俺には見覚えがあり、胸に突き上がる想いを感じていた。
「それでも俺は、君がいい」
「でも」
「今朝、時間があったから君に会いに行ったんだ。会社の通り道ってこともあるけど」
「え?」
「男の子とじゃれていた。かなえちゃんが邪魔しなきゃ、車から降りていた」
「……」
俺は、苦々しく口元を歪める。
切なげに瞳を曇らせるのを、ゆみは固唾をのんでいる。
「俺は、君を他の誰にも渡したくないんだ」
それでもゆみは、伸びてきた俺の腕を手早く払った。
「やめた方がいいです。私なんて」
「……俺が嫌?」
「そういうのじゃなくて、だから……」
もどかしそうに、ゆみは歯切れの悪く呟くように言う。
ゆみは、俺に視線を合わせずに、首を横に振ってしまった。


