溺愛している娘は俺の宝物だった

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「この子、ですか?」

 はりのある少し高めの声が、運転席から聞こえてくる。

 俺の胸元にすっぽりと抱かれ、ぼんやりしていたゆみが微妙に肩を揺らす。

「そう」

 俺は、体を離して戸惑い見つめるゆみの瞳を覗き込むように見ている。

「あの……?」

 俺は、柔らかな両頬を包み込むように抱いて、精悍な頬を傾ける。

 愛らしいゆみの、何か言いたげな顔。

 どうしても心奥から滲んだ想いが堪えきれない俺は、そっと唇へ触れた。

「んっ……」

 ゆみは、思わず目を閉じた。

「……まひと様、どちらへ?」

 黒いスーツの中に精悍な体を包み込み、銀フレームの眼鏡の中で怜悧に光る二つの眼。

 運転席でバックミラー越しに、俺とゆみを見つめていた。

「俺のマンション。そこできちんと仕事もするならいいだろう?」

 俺は顔を上げ、乱れたゆみの髪を優しくすいている。

「仕事をきちんとしてくれるなら」

 俺の頼れるボディガード兼片腕の瀬本義和は、ぽつりと言う。

「あの、杉本さん」

 ゆみは、我に返ったのか、俺の緩んだ腕をほどいて離れた。

「ん?」

「私のこと、まだ調べていないのですか?」

「会って一日しかたってないから、まだだけど?」

「なら、私があなたにふさわしくないこと、わかっていませんよね?」

 自分を卑下するゆみの瞳の翳りに、俺は怪訝そうに顔を曇らせる。

「それは、どういう意味?」

 「私が、あの高級住宅地とは不釣り合いということ、今はきっと分かっていないみたいですね。この先私と関わるのは、やめたほうがいいですよ」

「そんなことは、関係ない」

 俺は、ゆみの言いぶんに眉根を寄せながらも首を横に振る。

「私の家はわけありで、かなえの家に庇護して貰っているのです」

「それで、かなえちゃんに頼まれて代役を?」

「そうです。でもまさかこんな展開になるなんて、私もかなえもびっくりしてて」

 ゆみは、半ば長い睫毛を伏せてしまう。

 揺れる長い睫毛の下に、憂いのある深緑かかった黒い瞳。

 やはり俺には見覚えがあり、胸に突き上がる想いを感じていた。

「それでも俺は、君がいい」

「でも」

「今朝、時間があったから君に会いに行ったんだ。会社の通り道ってこともあるけど」

「え?」

「男の子とじゃれていた。かなえちゃんが邪魔しなきゃ、車から降りていた」

「……」

 俺は、苦々しく口元を歪める。

 切なげに瞳を曇らせるのを、ゆみは固唾をのんでいる。

「俺は、君を他の誰にも渡したくないんだ」

 それでもゆみは、伸びてきた俺の腕を手早く払った。

「やめた方がいいです。私なんて」

「……俺が嫌?」

「そういうのじゃなくて、だから……」

 もどかしそうに、ゆみは歯切れの悪く呟くように言う。

 ゆみは、俺に視線を合わせずに、首を横に振ってしまった。