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【戴冠式まで、あと7日】
祝賀会の衣装の最終仕上げが無事に終わり、ユリシーズがゆっくりとその衣装に袖を通した。
無駄な装飾を削ぎ落とし、流れるようなラインにこだわった設計。ユリシーズの長身が、その洗練されたシルエットを一層際立たせている。光を受けて淡く輝く若草色の生地は、まるで新たな王の即位をそっと祝福するかのようだった。姿見の前に立つ彼の姿は、まさに戴冠を控えた王にふさわしく、厳かで、威厳に満ちている。
(手直しして、本当に良かった)
彼の姿を見て、ニコラは思わず満足げに微笑んだ。ジーナおばあちゃんの理想のデザインに、限りなく近づけたように思える。もちろん、バルコイ王ではなく、これから王になるユリシーズ殿下に一番似合うように修正する部分は修正して仕上げたつもりだ。
思わず息を呑むようなその光景に、作業を共にしたメイドたちの間から小さな歓声が漏れる。
「殿下、綺麗……」
「あの美しさ、もう神話の域ね……」
「まるで殿下のためのデザイン……」
「あの衣装に自分が携わったなんて、信じられない……」
衣装を整える役目を終えたオリビアも、小さく、感嘆の吐息を漏らした。
「……本当に、素晴らしい手仕事」
その言葉にニコラはオリビアに目を向ける。目が合ったオリビアはニコラに向かって微笑んだ。心臓に悪い美人の笑顔というものがあるなら、オリビアのことを指すだろう。久しぶりに見たオリビアの笑顔に、ニコラはドキマギした。
オリビアが、パンッと手を鳴らす。
「戴冠式までにはまだ他の準備が山積みです。皆さん、遊んでいる暇はありませんよ。さ、仕事に戻りましょう」
その一言に、メイドたちは名残惜しそうに、けれど慌ただしく退出していった。オリビアもその背を追うように足早に去っていく。
やがて静寂が戻り、部屋にはユリシーズとニコラだけが残された。
しばしの沈黙ののち、ユリシーズはゆっくりとニコラのほうへ視線を向けた。
「……少し、痩せたのではないか?」
思いがけないその言葉に、ニコラは一瞬まばたきをし、それから慌てて首を横に振った。
「そうですか?自分ではあまり……」
「いや、やはり顔色も少し……目の下に、ほんの少しだけ影がある。睡眠は、取れているのか?」
まるで布の綻びを見つけるように、丁寧に彼女の疲れを指摘する声音だった。
「大丈夫ですよ。朝も昼も、ちゃんと食べてますから!」
ニコラは微笑んで言う。
「王宮のご飯ってすっごくおいしいんですね。本当は時間があったらもっとゆっくり味わいたいです」
「そうか……」
しかし、無理はしないように、と、ユリシーズに念を押されてニコラは苦笑するしかなかった。
