下町育ちのお針子は竜の王に愛される〜戴冠式と光の刺繍〜

「オリビア様から、許可はいただいています」
「オリビアさんが……?」
「ニコラさんの作業を見学し、学ぶことがこれからの仕事に役立つって。だから、しっかり学んでこいとおっしゃってくださいました」
「もちろん、ニコラさんみたいに速くは縫えません。でも、丁寧に、心を込めて縫います!」
「私たちがニコラさんに助けてもらったように、私たちもニコラさんの役に立ちたいんです!」

 テーブルクロスの完成品を見た時から、彼女たちの真面目さ、根気強さにニコラは気づいていた。裁縫には、その人の人柄が出るものだ。彼女たちなら、祝賀会の衣装も一緒に仕上げれる確信がニコラの中で生まれていた。

(今、大事なのは私一人で完成させることじゃない。大事なのは、戴冠式までに、完璧に完成させること……!)

「ありがとうございます。助かります」

 ニコラは笑みを浮かべて言った。
 部屋に入ってきたメイドたちはニコラの指示に従い、すぐに連携して作業に移る。ニコラも作業を再開しようとした時、その様子を見た一人のメイドがニコラに近づいて言った。

「ニコラさん、連日の作業で、きっと手が疲れているんじゃないかと……」

 そう言って彼女はニコラの手を優しく取った。

「作業を再開する前に、マッサージさせてください」

 その手は温かくて、優しい。丁寧に揉みほぐされていくうちに、こわばっていた筋肉が少しずつほどけていくのが分かった。
 優しさに、泣きそうになった。自覚していたより、プレッシャーに押しつぶされそうになっていた自分に気づく。

「ありがとう、ございます……」

 心からの声が、自然にこぼれた。
 マッサージを終えたメイドは静かに微笑んだ。

 そして、再び針を握ったニコラの手は、もう震えていなかった。
 さっきまでの不調が幻だったように、すらすらと糸が走り、布の上を針が軽やかに跳ねる。

(……うん、これなら、間に合う)

 ニコラは全体を見渡し言った。

「完成まで、よろしくお願いします。一緒に、最高の一着を作りましょう!」