「渡せなかったって……だって、こんな………」
「見事でしょう?」
ルカはわずかに眉を下げて微笑んだ。その表情はジーナおばあちゃんによくに似ていた。
きっと、おばあちゃんもそうやって笑って話したんだと思うと、胸が熱くなった。
羽のように軽いベールをそっと広げてみる。
光を透かすオーガンジーの布に施されたのは、シャドウワークの技法で淡く浮かび上がるシロツメクサ。
幸せを象徴するその花が、ベール一面に咲いていた。
一輪一輪が風に踊るようで、まるで草原の景色をそのまま縫いとめたかのようだった。
一針一針に込められた祈りが紡がれた、小さな祝福そのものだった。
「このベールは、私が一番好きなシンシア・グローリーの作品で、まだ誰にも見せたことはありません。これには彼女の想いが、深く込められています。……貴方には、伝わってきますか?」
ベールに咲くシロツメクサたちが、時を越えて語りかけてくるようだ。
目を閉じれば、先ほどの肖像画で見た姿の祖母がレースを編んでいる光景が見えた。その表情は、穏やかで暖かく、とても優しい。
『ごめんね、シャルロット』
『結婚を反対した私を許して』
『どうか幸せになって』
『生まれてきてくれて、ありがとう……』
ニコラの頬を涙が伝う。
おばあちゃんはこれをどんな気持ちで編んだんだろう?
お母さんに喜んでほしかったんじゃないの?
お母さんの笑った顔が、見たかったんじゃないの?
「これは姉のために作られたものですが、私が受け取ったのは、母が亡くなる一週間前のことでした」
「一週間前……」
「死期を悟っていたのでしょう。これを貴方に、と」
「私に?」
「この先、困るようなことがあれば、これを売ってお金に。もし素敵な人に出会って結婚するなら貴方に使ってほしい、と。それが母の最後の願いでした」
「嘘、だって……おばあちゃん、そんなこと、一言も……」
堪えきれず、ニコラの瞳から涙がこぼれた。
それを見たルカは、少し困ったように微笑んで言った。
「言えないから、想いを込めたんです。私と母はよく似ているから、私にはわかる。本当に言いたいことを言えない。……だからこうして、想いを託すんです」
言葉にできない感情が涙になってどんどん溢れてくる。
そんなニコラの前にそっとハンカチが差し出された。差し出したのはルカだ。
見るとハンカチは白い。
スーツもシャツもネクタイも黒で、てっきり黒にこだわりがあるのかと思っていたニコラはなんだか可笑しくなって、ルカに気づかれないようにクスッと笑みをこぼした。
しばらくして涙が落ち着いた頃、ニコラは訊いた。
「また、シンシア・グローリーの作品を見に来てもいいですか?」
「いつでも。連絡をください」
「……また、ルカさんとも会いたいです」
「ええ。喜んで」
「私が知らない、おばあちゃんやお母さんのこと……もっとたくさん、聞かせてください」
「私も、ぜひ貴方の話が聞きたいです」
ベールをそっと胸に抱きしめて、ニコラはカーチス家を後にした。
「見事でしょう?」
ルカはわずかに眉を下げて微笑んだ。その表情はジーナおばあちゃんによくに似ていた。
きっと、おばあちゃんもそうやって笑って話したんだと思うと、胸が熱くなった。
羽のように軽いベールをそっと広げてみる。
光を透かすオーガンジーの布に施されたのは、シャドウワークの技法で淡く浮かび上がるシロツメクサ。
幸せを象徴するその花が、ベール一面に咲いていた。
一輪一輪が風に踊るようで、まるで草原の景色をそのまま縫いとめたかのようだった。
一針一針に込められた祈りが紡がれた、小さな祝福そのものだった。
「このベールは、私が一番好きなシンシア・グローリーの作品で、まだ誰にも見せたことはありません。これには彼女の想いが、深く込められています。……貴方には、伝わってきますか?」
ベールに咲くシロツメクサたちが、時を越えて語りかけてくるようだ。
目を閉じれば、先ほどの肖像画で見た姿の祖母がレースを編んでいる光景が見えた。その表情は、穏やかで暖かく、とても優しい。
『ごめんね、シャルロット』
『結婚を反対した私を許して』
『どうか幸せになって』
『生まれてきてくれて、ありがとう……』
ニコラの頬を涙が伝う。
おばあちゃんはこれをどんな気持ちで編んだんだろう?
お母さんに喜んでほしかったんじゃないの?
お母さんの笑った顔が、見たかったんじゃないの?
「これは姉のために作られたものですが、私が受け取ったのは、母が亡くなる一週間前のことでした」
「一週間前……」
「死期を悟っていたのでしょう。これを貴方に、と」
「私に?」
「この先、困るようなことがあれば、これを売ってお金に。もし素敵な人に出会って結婚するなら貴方に使ってほしい、と。それが母の最後の願いでした」
「嘘、だって……おばあちゃん、そんなこと、一言も……」
堪えきれず、ニコラの瞳から涙がこぼれた。
それを見たルカは、少し困ったように微笑んで言った。
「言えないから、想いを込めたんです。私と母はよく似ているから、私にはわかる。本当に言いたいことを言えない。……だからこうして、想いを託すんです」
言葉にできない感情が涙になってどんどん溢れてくる。
そんなニコラの前にそっとハンカチが差し出された。差し出したのはルカだ。
見るとハンカチは白い。
スーツもシャツもネクタイも黒で、てっきり黒にこだわりがあるのかと思っていたニコラはなんだか可笑しくなって、ルカに気づかれないようにクスッと笑みをこぼした。
しばらくして涙が落ち着いた頃、ニコラは訊いた。
「また、シンシア・グローリーの作品を見に来てもいいですか?」
「いつでも。連絡をください」
「……また、ルカさんとも会いたいです」
「ええ。喜んで」
「私が知らない、おばあちゃんやお母さんのこと……もっとたくさん、聞かせてください」
「私も、ぜひ貴方の話が聞きたいです」
ベールをそっと胸に抱きしめて、ニコラはカーチス家を後にした。
