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お針子店『Charlotte―シャルロット―』。
たった一晩しか離れていなかったのに、帰ってきた瞬間、懐かしさを感じた。
それはきっと、今朝ジーナおばあちゃんの夢を見たからかもしれない。
「貴方が手伝うと何か重大な失敗を犯しそうだから」と、アベルに釘を刺されているライアンは馬車の中で待機している。そのため、シンシア・グローリーのデザイン画探しはニコラとチャリオの二人ですることになった。
チャリオは下町のお店が珍しいようで、生地や糸、型紙やトルソーなど店の物をどれも興味深く見ていた。
「さて、と……」
ニコラは考えた。生まれてからずっとこの店で過ごしてきたけれど、シンシア・グローリーのデザイン画なんて一度も目にした記憶がない。ただ当てずっぽうに探しても見つけれる自信はなかった。
「私は何をすればいい?」
チャリオに訊かれてニコラは辺りを見渡した。
「ええと、それじゃ、本棚をお願いしてもいいかな?」
わかった、と返事をしてチャリオは本棚の本を一冊手に取り、ページをパラパラとめくった。
(考えてもわかんないか……)
ニコラは過去に描いたデザイン画がまとめて置かれたクローゼットから探すことにした。
一時間が経過した。
過去のデザイン画を一枚一枚目を通しているがどれも見覚えのあるものばかり。チャリオに目をやると、、彼は黙々と本棚の本をめくっていた。遊びたい年頃だろうに、よく飽きないなぁとニコラは感心した。そもそも、ジーナおばあちゃんが伝説のお針子、シンシア・グローリーというのがニコラにはまだ信じられない。
(でも、もしジーナおばあちゃんがシンシア・グローリーなら、あと置きそうな場所は……)
ニコラは手にしていたデザイン画を戻し、そっとその場を離れ、祖母ジーナの部屋へ向かった。
ジーナが亡くなってから一年が経つ。ベッドと作業机に簡易の椅子というシンプルな部屋。それでも作業机の中など片付ける気にはなれず、生前のままの状態だ。時々掃除をして空気を入れ替えているので、埃などは溜まっていない。
ニコラは作業机の引き出しを上から順に開け、中の物を確認する。
一番上の引き出しにはジーナおばあちゃんが愛用していた刺繍の道具が入っていた。同じ道具を使って教えてもらっても、ジーナおばあちゃんみたいに刺繍できる日が来るのだろうか、と常々思ったものだった。
二番目の引き出しには、色褪せたビーズのブレスレットや、四葉のクローバーの栞、そして子どもの頃に描いた拙い絵が数枚。どれも小さい頃にニコラがジーナに贈ったものだった。何気なく渡したはずのものを、ずっと大事に取っていてくれた。そのことが嬉しくて、いつ見ても思わず涙がこぼれる。
(……まだ全部の引き出しを確認していない)
涙を拭いながら、最後に残った一番下の引き出しをそっと開けて中を探る。すると、奥のほうに何かを隠すように押し込まれた、鍵付きの本を見つけた。今までまったく気づかなかったことに驚き、胸がどくんと高鳴る。
けれど、何度も引き出しの中を探してみても、肝心の鍵は見当たらない。途方に暮れていると
「あったのか?」
後ろから声を掛けられてびっくりした。いたのはチャリオだ。
