「殿下……?あっ、ユリシーズ殿下のことですか?」
「当たり前じゃない。殿下は滅多に社交場にいらっしゃらないから、こうやって王宮の庭園でお茶会を開いて、みんな機会を窺っているの」
女性は扇で含み笑いを隠した。
(機会を窺う?窺ってどうするのだろう)
「殿下にお会いできると思ったのに、いたのは汚い野鼠でがっかり」
女性は高らかな笑い声を立てた。
この場にはニコラしかいない。汚い野鼠とはニコラを指しているのだ。華やかなドレスを着た彼女と、いつものエプロンをつけた作業服の自分。ニコラはどうしていいかわからず視線を落とした。反論しないニコラに興味を無くした女性がその場を立ち去ろうとした、その時、ビリビリッ、と布の裂ける音が響いた。彼女のドレスの裾が、垣根から伸びた小枝に引っかかっていたのだ。
「まあ!なんてこと……!」
女性はわなわなと震え、扇でニコラを指して言った。
「あ、貴方のせいよ!全部、貴方のせいだから!」
「え!?わ、私のせいですか!?」
「そうよ、貴方さえいなければ、こんなことにならなかったわ!こんな姿、殿下に見られたら……!」
女性はその場に座り込み、手で顔を覆った。ニコラには事の重大さがわからなかったが、こんなに落ち込むなんて、この人にとってはよほどの事なんだろうと思う。
そっと隣にしゃがみ込み、ニコラは静かに裁縫箱を開け、鋏を取り出した。
「な、何するつもり!?」
「真ん中から裂けているので元通りには出来ませんが、目立たなくすることはできます」
「え?」
「少しの間だけ、じっとしていていただけますか?」
「え、ええ……」
恐る恐る頷いた女性のドレスに、ニコラは慎重に鋏を入れる。裂けた生地を綺麗に取り除きながら、ニコラは冷静に構造を分析していた。
(やっぱり、思った通り)
以前、巡業中のサーカス団員から頼まれて、似た構造の衣装を仕立てたことがある。このドレスのスカート部分も何層もの生地が重なっていて、裂けたのは一番上の生地だ。だからそこを切り取っても中が見える心配はない。また、スカートの膨らみは女性がドレスの下に着用している針金の器具によるものなので、多少アレンジを加えてもシルエットが崩れる心配もなかった。
ニコラはカットした生地を折って、花の形を作る。続いて裁縫箱から針と糸を取り出し、ドレスの裾の裂け目を持ち上げるようにドレープ状に整え、その上に作った花の装飾を縫い付けた。
「……これで、よしっと。いかがですか?」
女性はそっと立ち上がり、ドレスの裾を確かめた。
「可愛い……!可愛いわ!どうしてこんなことができるの?本当に素敵!!」
感激した女性は瞳を輝かせ、満面の笑みを浮かべている。さっきまでの棘のある言葉をニコラに向かって吐いていたとは思えない。
「当たり前じゃない。殿下は滅多に社交場にいらっしゃらないから、こうやって王宮の庭園でお茶会を開いて、みんな機会を窺っているの」
女性は扇で含み笑いを隠した。
(機会を窺う?窺ってどうするのだろう)
「殿下にお会いできると思ったのに、いたのは汚い野鼠でがっかり」
女性は高らかな笑い声を立てた。
この場にはニコラしかいない。汚い野鼠とはニコラを指しているのだ。華やかなドレスを着た彼女と、いつものエプロンをつけた作業服の自分。ニコラはどうしていいかわからず視線を落とした。反論しないニコラに興味を無くした女性がその場を立ち去ろうとした、その時、ビリビリッ、と布の裂ける音が響いた。彼女のドレスの裾が、垣根から伸びた小枝に引っかかっていたのだ。
「まあ!なんてこと……!」
女性はわなわなと震え、扇でニコラを指して言った。
「あ、貴方のせいよ!全部、貴方のせいだから!」
「え!?わ、私のせいですか!?」
「そうよ、貴方さえいなければ、こんなことにならなかったわ!こんな姿、殿下に見られたら……!」
女性はその場に座り込み、手で顔を覆った。ニコラには事の重大さがわからなかったが、こんなに落ち込むなんて、この人にとってはよほどの事なんだろうと思う。
そっと隣にしゃがみ込み、ニコラは静かに裁縫箱を開け、鋏を取り出した。
「な、何するつもり!?」
「真ん中から裂けているので元通りには出来ませんが、目立たなくすることはできます」
「え?」
「少しの間だけ、じっとしていていただけますか?」
「え、ええ……」
恐る恐る頷いた女性のドレスに、ニコラは慎重に鋏を入れる。裂けた生地を綺麗に取り除きながら、ニコラは冷静に構造を分析していた。
(やっぱり、思った通り)
以前、巡業中のサーカス団員から頼まれて、似た構造の衣装を仕立てたことがある。このドレスのスカート部分も何層もの生地が重なっていて、裂けたのは一番上の生地だ。だからそこを切り取っても中が見える心配はない。また、スカートの膨らみは女性がドレスの下に着用している針金の器具によるものなので、多少アレンジを加えてもシルエットが崩れる心配もなかった。
ニコラはカットした生地を折って、花の形を作る。続いて裁縫箱から針と糸を取り出し、ドレスの裾の裂け目を持ち上げるようにドレープ状に整え、その上に作った花の装飾を縫い付けた。
「……これで、よしっと。いかがですか?」
女性はそっと立ち上がり、ドレスの裾を確かめた。
「可愛い……!可愛いわ!どうしてこんなことができるの?本当に素敵!!」
感激した女性は瞳を輝かせ、満面の笑みを浮かべている。さっきまでの棘のある言葉をニコラに向かって吐いていたとは思えない。
