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「ニコラちゃん、おはよう!よく眠れた?」
朝、明るい声とともに客室に入ってきたのはライアンだった。久しぶりにジーナおばあちゃんの夢を見たニコラの表情は少し硬い。
そんなニコラの様子を見て、ライアンは首をかしげながら問いかけた。
「うーん、あんまり眠れなかったかな?」
ニコラは慌てて笑みを作った。
「いえ、大丈夫です!よく眠れました」
「馬車の準備にまだ少し時間がかかるんだ。よかったら庭でも散歩してきて」
ライアンにそう言われ、ニコラは素直に頷いた。念のため、すぐ出発できるように裁縫箱を手に持って部屋を出る。
昨日は王宮というだけで胸がいっぱいで、とても景色を楽しめる状態じゃなかった。けれど今、改めて目にした庭園は息を呑むほど美しい。落ち込んでいた心が、少しずつ軽くなっていくのを感じた。見た事がない様々な種類の花が咲いている。何処か外国の花かもしれない。楽園ってこんな感じなのかな、と夢見心地で歩く。
庭園を歩き進めていると、風に乗って笑い声が聞こえてきた。垣根の向こうをそっと覗くと、数人の貴族女性たちが優雅にお茶を楽しんでいるのが見える。王宮の中でのお茶会となれば、王族に近い人なのかもしれない。
『下町で暮らしている貴方に祝賀会と言っても想像つかないでしょうが……』
ふと、昨日のアベルの言葉が頭をよぎる。
あの時はその通りだから認めるしかなかったが、『貴方にはできない』と言われているみたいで、複雑な気持ちになった。小さい時からジーナおばあちゃんの元で技術を磨いてお針子をしてきた私は、いつも誇りを持って仕事をしていた。唯一の取り柄である裁縫のことで、できないと決めつけられるのが嫌だった。
(……違う。アベルさんに言われたことが嫌なんじゃない。一番嫌なのは、できないって思ってる自分……)
そう気づいた瞬間、これまで積み重ねてきた努力まで、なんだか全部が空っぽに思えてきて自分が恥ずかしくなった。誇りだったはずのものが、ただの自己満足だったんじゃないかって、不安になった。
(悔しい……!)
ニコラは自分の頬を両手で叩いた。
(できないなら、できるように頑張ればいい。今まで何度もやってきたことじゃない!)
前を向いた視線の先、垣根の隙間から見えるのは、明るい色の華やかなドレスを身に纏った貴族女性たち。ふわりと膨らんだ袖と裾が特徴的だ。貴族の人が着る服について、あとでライアンに尋ねてみようとニコラが思った時
「……あら?」
すぐ近くから声がして、ニコラはびくりと肩を跳ねさせた。振り返ると、そこには膨らんだ袖と裾の華やかなドレスを着ている若い女性が一人。どうやらお茶会の一員のようだ。
「貴方、ここで何をしているの?誰かの影が見えたから、てっきり殿下かと期待したのに。あーあ、残念」
女性はつまらなさそうに手に持った扇を開いたり閉じたりして呟く。
