下町育ちのお針子は竜の王に愛される〜戴冠式と光の刺繍〜

「そのような大々的に悪事を働く輩がいるのだな……」

 ユリシーズは眉を顰めて呟いた。
 王子様はこのようなゴシップを聞く機会はないのだろうとニコラは想像して、おせっかいかとは思ったが補足した。

「あの、ユリシーズ殿下。怪盗ジェドはとても人気がある怪盗なんですよ」

 ユリシーズの瞳が僅かに開いた。あまり表情が表に出ない人のようなので、もしかしたらこれが最大限の驚きの表情なのかもしれない。

「それは、何故だ?」
「ええと……、怪盗ジェドが人気なのは、盗んだ物で貧しい人に施しを与えるからなんです。もちろん、盗みはいけないことですが、盗みに入る相手は悪いことをしている貴族で、あ、でもその貴族が本当に悪いことをしているのかは私にはわからないですが……。でも、街の人たちに人気なのは確かです」
「そうそう!そうなのよ!」

 ネフィリスはニコラを抱きしめて頭を撫でた。ネフィリスから異国の花のような独特のムスクの香りがした。

「それならユーリの戴冠式のマントを盗まなくてもいいのに!ユーリは何も悪いことなんてしてないよ!」

 ライアンがまた声を張り上げた。ネフィリスは腕組みをして言った。

「うーん…今回の件、やっぱり何か引っかかるわね~」
「貴方はその双子の仕業だと?」
「さあ?それはあたしにはわからないけど」

 アベルは眼鏡を上げ直した。

「いずれにしてもマントがこの場に無いのは事実。マントは代々受け継がれてきた物で代わりはありません。戴冠の度に意匠を重ねていく習わしで、今回は刺繍を、と思っていたのですが……。この事件が露呈すれば国の威厳に関わります。現在、怪盗ジェドを秘密裏に捜索中ですが、最悪代替え品も考えた方が良さそうですね。ユリシーズ殿下、それでいいですね?」
「ああ」
「僕は?僕は何をしたらいい?」

 ライアンがアベルに訊いた。

「貴方は問題ばかり起こすので捜索には関わらないでください」
「そんなぁ!」
「その代わり、明日の朝ニコラさんを家まで送ってください」
「それなら出来そう!」

 ライアンは笑顔で答えた。アベルはニコラに向かって告げた。

「ニコラさん、今日はもう遅いので王宮に泊まってください。客室を用意します。明日の朝、一度家に戻っていただいてシンシア・グローリーのデザイン画を探して来てください」

 店の中の風景やいつも置いているものの配置を思い出して、ありそうな場所を考えるけど、そんなものは今まで見たことがない。
 ニコラは不安に思って尋ねた。

「あの、もし見つからなかったら……?」
「なんとしても見つけてもらいます」
 
 そんな無茶な、と思ったがアベルの冷たい瞳に反論は出来なかった。

「一人、供の者を寄越そう」

 そう言ったのはユリシーズだ。
 アベルが怪訝な顔をユリシーズに向けると、ユリシーズはアベルに話がある、と言って二人は退室した。

「はぁ~、なんか大変なことになっちゃったね」

 事の発端、ライアンに笑顔でそう言われたニコラはなんと答えたらいいか分からずぎこちない笑顔を返した。