遥か昔、この世界にはいくつもの国がありました。
ある時は一つにまとまり、ある時は二つに割れ、またある時は小さな国々が寄り添い、新たな国を形づくることもありました。
世界は、風のように、雲のように、常に移ろい続ける運命の中に在ったのです。

この世界には人間の他に、竜人族(りゅうじんぞく)獣人族(じゅうじんぞく)鳥人族(ちょうじんぞく)魚人族(ぎょじんぞく)緑人族(りょくじんぞく)という、五つの種族が共に生きていました。
人と動植物が交わった姿を持つ彼らは『ハルヴァ』と呼ばれていました。

ハルヴァは、人間にはない不思議な力を持っていました。
中でも竜人族の力は巨大で、その強さに敵う者はいませんでした。

やがて、争いの時が訪れます。
人とハルヴァ、そしてハルヴァ同士が戦を始めたのです。
怒りと憎しみ、そして悲しみに満ちあふれた世界は、人とハルヴァの多くの命を奪いました。

いよいよ世界が壊れかけた時、突如、一人の青年と一頭の竜が現れました。
青年の名はヴォルシス。

青年と竜は力を合わせ、長く続いた争いに終わりをもたらしました。
のちに青年は英雄と呼ばれ、世界の中央に位置する国の王となり、竜はその役目を終えて天へと昇っていきました。

その日を境に、竜人族の姿を見た者は誰一人としていませんでした…………


────ルブゼスタン・ヴォルシス国『建国ものがたり』より