空気みたいだとあなたが仰ったので。~地味令嬢は我慢をやめることにした~

「はい。カミラ嬢とは随分と前から親しくしていらっしゃったようで、気安いご様子でした。そして、その時私のことを……『空気のような女』だと仰っていました」

 言葉を呑み込みたかったが、誤魔化す理由もない。

「……つまらない婚約者だから、いずれ婚約解消するつもりだったそうですわ」

 言えた。言った。
 私の言葉に、静寂が落ちた。

 サロンの広々とした空間が、息苦しく感じるほどの沈黙に包まれる。

 お父様は拳を握りしめ、お母様は目を伏せている。レオン兄様は奥歯を噛みしめながらこちらを見つめていた。

──待って、お兄様のカトラリーが大変なことになっているわ。

 力を込めすぎたのか、フォークもナイフも変な方向に曲がっている。
 三者三様の家族をゆっくりと見回した後、私は静かに手を膝に乗せた。

「……以上が、お茶会での出来事です」

 そう言ったあと、誰もすぐには口を開かなかった。
 お父様は深く息を吐き、お母様は何か言いたげに口を開きかけて閉じる。
 レオン兄様は怒りを抑えきれない様子で、ギリッと歯を食いしばっている。
 私もまだ心臓がバクバクしている。

 大好きな家族に、こんなことを伝えることになったことが悲しい。
 パキ、という音が控えめながらも鋭くサロンに響き、静寂を破った。

 お父様が手にしていたティーカップの持ち手が、ばらばらに折れたのだ。

 割れた陶磁器のかけらが白いクロスの上にパラパラと転がり、皿の上の紅茶がわずかに揺れる。

「……」

 お父様がゆっくりと手元を見る。まるで今の出来事が現実ではないかのように。
 侍女たちの間に、かすかな緊張が走る。

 握力が強すぎるのもあるが……ただ、それほどまでに、沸き上がる怒りが抑えきれなかったのだろうと推測する。

「お父様……」

 私が小さく声をかけると、お父様は静かにカップから手を離した。

「すまない。力が入ってしまった。替えを頼めるか?」

 そう言いながらも、その声音は明らかに冷え切っている。
 侍女が急いで割れたカップを片付けようと近づくが、お母様がそっと手を挙げて制した。

「いえ、まだそのままで構いません。夫が、もう少し冷静になるまで。我が家のティーセットを全て壊されては困ってしまいますもの」