空気みたいだとあなたが仰ったので。~地味令嬢は我慢をやめることにした~

 結婚前の火遊びなんて、みんなやっていることじゃないか。愛妾がいる貴族も多いだろう!
 僕だってただ、自由にやりたかっただけだ!
 それなのに、どうして――!

***

 それから数日後、僕はカミラと会っていた。
「ねぇ、エドワード様ぁ……」
 カミラが甘えるように僕の肩に寄りかかる。
「リリアナ様とは婚約解消にはなりましたのよね? これから、私たちはずっと一緒なんでしょ?」
「……」
 僕は、彼女の顔をまともに見られなかった。何かが違う。
 カミラの香水の匂いが、やけに鼻につく。
「……エドワード様? お疲れですの?」
 彼女が頬を寄せてくるが、僕は思わず手で振り払ってしまった。
「っ……」
 カミラの表情がこわばる。
「……どうして避けるの?」
「いや……別に」
 僕は誤魔化しながらも、どこか苛立ちを感じていた。
 カミラの甘ったるい声が、耳に障る。
 前はこんなことなかったのに――。
「……エドワード様、最近変よ?」
 カミラが不安そうに俺を見上げる。
「わたしと一緒にいるのが、嫌になったの?」
「……別に、そういうわけじゃない」
 それは嘘だった。正直、あれからカミラといることが息苦しく感じるようになっていた。
 なぜだろうか。あんなに焦がれて、一緒になりたいとまで思っていたのに。
 今はただ、引っ付いてきて煩わしいとさえ思ってしまう。
「昔みたいに、優しくしてよ……」
 カミラが縋るように腕を絡めてくるが、僕はその手を引き剥がした。
「……もう帰る」
「え……?」
「帰るって言ってるんだ」
 僕はそう言い残し、彼女に背を向けた。

 僕は、一人になった部屋で、無意識に額を押さえていた。
 カミラは、違う。求めていたのは、こんなものじゃなかった。
 婚約者にしたいと思ったのは軽率だったな。愛妾のままでいる方が、僕も気楽だったと思う。

 ――そうだ。リリアナなら。
 思考の奥底から、ふとその名前が浮かび上がった。
 リリアナなら、もっと静かで、もっと控えめで、いつも僕を心地よく支えてくれていた。あいつは、いつも側にいてくれた。
 結婚するにはああいう相手がぴったりだろう。

「……いや、まだ間に合うはずだ……リリアナさえ戻れば、なにもかも元通りだ……」

 リリアナなら話せばきっと分かってくれる。

 あいつは、優しいから。それに、僕に合わせて地味にしてくれていたということは、僕と別れたくなかったからだろう?
 なんてことだ! リリアナの深い愛に、今更気がつくなんて!
 彼女は僕を愛していて、僕もリリアナを愛していたんだ!
 その気持ちをしっかりと伝えれば、僕らは全て元通りだ。

「そうだ……リリアナは僕を愛しているからこそ……合わせてくれていたんだ……ふふ、ふふふ……」

 僕はそう呟きながら、ゆっくりと笑みを浮かべた。