空気みたいだとあなたが仰ったので。~地味令嬢は我慢をやめることにした~

 そう思ってレオン兄様を見ると、明らかに遠い目をしていた。

「……ともかく。リリアナは王宮の騎士ではなく貴族令嬢です。そうした実験動物を見るような目では見ないでいただきたい」
「ボクはただ、研究者として純粋に観察してるだけなんだけど~?」

「殿下にとってはそうかもしれませんが、一般的にはそうではありません」

 お兄様の口調は冷静だったが、その声にはわずかな疲れの色が滲んでいた。
 百回の実験。なんだかすごい。

「ふむふむ、なるほど~」

 殿下に向かってその言い方でいいのかしらとハラハラしたが、当のエリオット殿下ご本人はまるで気にしていないようだ。
 エリオット殿下は腕を組み、何か考えるような仕草を見せる。
 そして、突然私に手を差し出した。

「早速だけど、君に提案があるんだ!」

 私が思わず目を瞬かせていると、彼はにこにこと笑いながら続けた。

「……提案でございますか?」

「うん! 君さ、 魔塔に来ない?」

 ……今、なんておっしゃったのかしら?
 サロンの空気が一瞬にして凍りついた。
 お父様とお母様、それにレオン兄様も周囲の使用人一同みな硬直し、私も驚きで言葉を失ってしまった。

「……私が、魔塔にでございますか……?」

 震える声で問い返すと、エリオット殿下は満面の笑みで頷いた。

「うん! 君の魔力は貴重だからね。ボクとしては、ぜひ魔塔で研究しながら、その力を磨いてほしいんだよ!」

 食堂にいた家族たちが、慎重な表情でエリオット殿下を見つめる。
 お父様が低い声で口を開いた。

「つまり、王家としてリリアナを魔塔へ迎え入れたい、ということでしょうか?」

 エリオット殿下はにっこりと笑う。

「うん、そういうことになるね。エバンス卿」

 それを聞いて、レオン兄様が一歩前に出た。

「しかし、殿下。リリアナは魔術師としての正式な教育は受けておりません。それでも魔塔でやっていけると?」

「問題ないよ!」

 エリオット殿下は胸を張る。
 彼の口調は軽快だったが、その言葉には確固たる自信があるようだ。
 私は自分の手を見つめた。
 私の魔力が……魔塔で……?

「むしろ、普通の魔術教育を受けた人たちよりも、君の方がずっと面白い魔力を持ってる。魔塔には知識のある魔術師はたくさんいるけど、新しい理論を作れる才能っていうのは貴重なんだよね~!」