空気みたいだとあなたが仰ったので。~地味令嬢は我慢をやめることにした~

 陽光が降り注ぐ王宮の庭園は、華やかな貴族たちの談笑で満たされていた。
 色とりどりの花々が咲き誇り、甘い香りが春の風に乗って漂う。

 銀のティーセットが日の光を反射し、貴婦人たちの笑い声が優雅に響いている。

 私、リリアナ・エバンスは、その賑やかな光景から少し離れた四阿の近くで静かに過ごしていた。

 ひとり静かに佇む私の姿は、自分で言うのもなんだが年頃の貴族令嬢らしい派手さとは無縁だ。
 今日のお茶会は社交の場とはいえ、最低限の挨拶は済ませた。今は少し休もうと腰かけたところだった。

 平凡な茶色の髪はひとつにまとめあげ、家族おそろいの水色の瞳は、場の喧騒よりも四阿の木漏れ日を追いかけていた。控えめな空色のドレスに身を包んだ私は、いつものように目立たない存在でいようとしていたけれど――

「……カミラ、君は本当に可愛いな。まるで春の妖精のようだ」

「まあ、エドワード様ったら」

 聞きたくもない甘ったるい声が耳に飛び込んできた。
 思わず視線を向けると、四阿の柱の影でとある伯爵令息が金髪の令嬢を抱き寄せていた。

 あの男性のことを私はよく知っていた。名前はエドワード・バークレー。そして、私の婚約者だ。
 そして彼が恋人然とした態度でうっとりと見つめているのは男爵令嬢のカミラ・アルトマンだ。

 カミラは昼間のお茶会にはふさわしくない深く胸元の開いた深紅のドレスを身に纏い、艶やかな髪を妖艶に風になびかせながらエドワードに微笑みかけている。

「もう、エドワード様ったら……そんな風に褒めてくださるなんて。でも、わたしなんかより、もっと美しいお嬢様がたくさんいらっしゃいますのに」

「いや、君以外にこんなに魅力的な女性はいないさ。君の瞳は宝石のように輝いているし、君が笑うだけで僕の世界は満たされるんだ」

 二人は私の存在にはまるで気付いていない。
 見ているこちらが赤面しそうなほどの甘い言葉の応酬。だが、それだけではなかった。

「それに比べて……リリアナなんて、全然面白くないんだ。地味で空気みたいな女だよ」

 私の名前が出た瞬間、全身が凍りついた。