―Side 稲葉翼―
自分でも分かるほどに声が震えていた。
最後の
『元気でね』
なんてうまく言えなかったかもしれない。
廊下の向こうから聞こえる結衣ちゃんのすすり泣く声。
これでよかった、よかったんだ。
そう思い込まないと結衣ちゃんを抱きしめそうだった。
ただ僕は中途半端で。
結衣ちゃんが僕じゃない誰かと幸せになってほしいから冷たくしたのに
最後の最後に優しくしてしまった。
僕はまだまだ未熟で。
結衣ちゃんをただ混乱させてしまっただけのような気がしてならない。
僕はそんなことを考えながらひたすらリハビリ室を目指していた。


