『………結衣、ちゃん?』
自分でもビックリしていた。
私は、1人でベットを降りて、稲葉さんのあとを追った。
廊下で稲葉さんの名前を叫ぶ。
ゆっくり振り向いた稲葉さんは、目を丸くしていた。
稲葉さんが1歩1歩私に近づいて来る。
「私…私は…」
目の前に稲葉さんが来て、私の鼓動の速さが増す。
『結衣ちゃん?
なんか…勘違いしてない?』
稲葉さんはあの笑顔を見せてはくれず、
厳しい目をしたまま、言葉を発した。
『ちょっと優しくしたからって勘違いしないでよ。
僕は最初から結衣ちゃんみたいな子ども、相手にしてないよ?』
稲葉さんの冷たい言葉に私は凍り付く。
でも、分かってた。
私は…子どもなんだもん。
こうなって当たり前…
心の中でそう思っていたはずなのに。
そう、割り切っていたはずなのに。
どうしてだろう。
涙が、止まらない。


