すると、乃亜は、急に俺の方を見た。
「ねえ、月が綺麗だね」
「え、ああ……」
とっさにそう答えた。
乃亜は、ふふ、と笑って嬉しそうにした。
どうしたんだ……?
「玲夜はもっと国語の勉強を頑張ろうよ。夏目漱石って分かる?」
「……誰だっけ。聞いたことある気はする」
「はあ……。まあいいや! おやすみ、玲夜」
いつもの乃亜に戻って、部屋に入って行く。
なんで、夏目漱石……?
そう思っていたけれど、ちゃんと勉強してる奴なら気が付いたかもな。
――――――あれは、乃亜なりの、告白だったんだって。
俺は、それに気付かずに、お風呂に入った。
その日が、まともに『花宮 乃亜』と話した最後の日だった――――。

