翌週の放課後。

撮影衣装を仕分けしていたときだった、美咲先輩が両手を腰に当てて言い放った。

「ごめん! 私、やっぱりお姫様やりたくない……王子様役がいい!」


一瞬、教室が静まり返る。
「え、でもドレスも用意しちゃったし……」


「だって、王子様のほうがかっこいいじゃん! やりたいんだもん」
わがままのようでいて、美咲先輩の目は本気だった。

その場は少しざわついたが、最終的に「じゃあ代役を探そう」ということになった。

けれど、急に誰かを用意できるものでもない。
 そしてなぜか――気づけば、みんなの視線が私に集まっていた。

演劇部の子たちは、みんな役が決まっていた。

写真部は、全員、男子しかいない。

実は手芸部は三人しかいなくて、ひとりは男子。
もうひとりは、このイベントのメイク担当でとても忙しい。

実質、ドレスを着られる女子が、私ひとり。

「……え? わたし?」
 はさみを持った手が止まる。

「体系も近いし、ちょっと試着してみなよ」

「いや、ぜったい無理です! 私なんかが……!」
 慌てて否定したけれど、先生も写真部の子も「とりあえず」と私をドレスの前へ押し出す。

 その瞬間、胸がどくんと高鳴った。

 ずっと憧れていた『お姫様』という言葉が、現実のものになろうとしている。