放課後の街。

私は、気づけば知らない路地を歩いていた。

――篠崎先輩のことを、もっと知りたい。

「俺はお前を姫って呼ぶ」なんて強引に言ってくるけど、どうしてそんな人が、あんなに人を惹きつけるんだろう。

噂を耳にした。「篠崎蓮は裏通りを仕切る総長だ」――。

信じられない。でも確かめたくて、足が勝手にここまで来てしまった。

人気のない裏通り。壁に寄りかかるように、煙草を吸っている男たちがいた。

「おやぁ? こんなとこに迷い込むなんて、お嬢ちゃん、運が悪いね」

ぞくりと背筋が震える。後ずさろうとした瞬間、腕をつかまれた。

「離してください!」

「いいじゃねぇか、少し遊んでこうぜ」

恐怖で声が震える。――助けを呼ぼうにも、ここには誰もいない。

その時だった。

「手ぇ離せ」

低く鋭い声が路地に響いた。

振り向くと、篠崎先輩が立っていた。
制服のネクタイを緩め、片手でポケットに突っ込み、
もう片方の手には無造作に木刀を持っている。

その目は冷たく光り、空気が一瞬で張りつめた。

「し、篠崎……っ!」

「おい、総長……!」

男たちの顔色が変わる。

先輩はゆっくりと歩み寄り、私の腕をつかむ手をひと睨みした。

「もう一度言う。手を離せ」

男たちは慌てて私を突き放し、蜘蛛の子を散らすように逃げていった。

残された私は、足がすくんで動けなかった。

先輩がふっと木刀を肩に担ぎ、ため息をつく。

「……バカだなお前。危ないから、ここには来るなって」

「……っ、ごめんなさい。でも……知りたくて……」

「知る必要なんかねぇだろ」

「あります!」思わず声が大きくなる。
「先輩がどんな人なのか、ちゃんと……知りたかったんです!」

先輩は黙ったまま私を見つめる。

その視線に射すくめられて、胸が苦しくなる。

やがて、彼はゆっくりと目を伏せ、少しだけ笑った。

「……お前、本当にバカだ」

「……」

「でも、そんなバカが……俺は嫌いじゃない」

次の瞬間、優しく頭に手が置かれた。大きくて温かい掌。

「怖かったろ。もう大丈夫だ。俺が守ってやる」

野獣みたいで恐ろしいと思っていた彼が、

今は――誰よりも優しい王子さまに見えた。