「おかえりなさい、お母様。今日学校でね、割り算を習ったんだよ。」
まるで私の帰宅を待ち構えていたかのように、カイルが話を始めた。
その奥ではサラとアリスが来たるべき「ハイマー商会ツアー」のことを話して、盛り上がっていた。
「はい、ただいま。みんなちゃんとお留守番ができたみたいね。」
「ええ、メアリーがおやつを用意してくれたので、みんなで食べていたのよ。」
通常、使用人とは一緒に何かを食べることはないのだが、今日は私の不在でメアリーが気を遣ったのだろう。
「サラといっしょに食べた。」とカイルが嬉しそうに言った。
「どう?みんなと一緒に食べると、楽しいでしょう?」
「うん、いろんなおしゃべりをして、楽しかった。」
「そう、良かったわね。
次は私もみんなで食べようかしらね。」
「お母様も一緒なの、それは楽しいわね。
是非サラともお話をしてほしいのよ。
サラがね、どうやって子供服を売り込むか一緒に考えてくれたのよ。」
そう言って、私に二人で考えた計画のメモを手渡した。
「そんな、お嬢様、はずかしいですよ。」
「いいえ、これはなかなかの物よ。
サラ自身がどうしてほしいかがちゃんと書いてある。
お客様の気持ちになっているわね。」
「でしょう?
なかなかいいと思うのよ。」
私はサラのひたむきさに加えて、センスの良さに驚いていた。
特に姿絵を即興で書いてもらうというアイディアは私にはなかった。
「これは今度、グランお兄様と一緒に会議に参加してもらわないとね。」
「そ、そ、そんなぁ。
わたしなんかが会議にだなんて。」
「ほら、また『私なんて』って言った。
サラ、私も一緒にいるからきっと大丈夫だよ。」
「それならみんなでお茶会にしましょうね。
では、グランお兄様に話をしておくわね。」
「ええ、とっても楽しみ。」
かつて私たちも仲間同士の懇親会にはよく夫婦で呼ばれたものだった。
話題の中心にはいつもカミルとケイトがいて、よく仕事の話で盛り上がっていた。
アリスたちの様子を見て、そんなことを思い出していた。
「ほら、もうすぐジョージ先生が来られますよ。
宿題は済んだの?」
アリスはジョージ先生の課題を思い出し、ピアノに向かってお祈りをしてから、いつものように練習を始めた。
アリスにとって、ピアノと向き合うことは、カミルと語らいだった。



