午後8時ごろ、二人は「馬車馬」にいた。
今日もこの店には客ななかった。
「店主、話があるんだがいいか。」
「ああ、今日はどんな話が聞きたい?」
「いや、そうではなくてな。
以前この店を閉めたいと言っていただろう。
うちの主人が当座の支援をするから店を開けてくれと言っていてな。」
店主は驚いていた。
唐突に提案された内容の意図がわからなかった。
「そいつはありがてぇが、いったい何の目的で?」
「少しこの辺りの情報も欲しい、『エデン』に関することもな。
だからここが無くなっては困るのだよ。」
店主は少し考えてから、
「店を続けるのは構わないが、俺も安全がほしい。
旦那の庇護のもとで働かせてもらえないか?」
トーマスは少し考えてから、
「よかろう、主人と話をしてみよう。」
「俺はこの店の経営を旦那に任せる。
俺が雇われの身になれば、旦那の言うことを聞いて、いろいろと調べることもできる。
これでもここでの付き合いは多いのでな。
どうだ?」
トーマスは少し思案してから、
「ふむ、悪くないな。
これは当座の活動資金だ。
ご主人様から預かった。」
そう言って金貨を1枚出した。
「こいつはありがてぇ、俺はオーエンって言うんだ。
ところでご主人様のお名前を教えてくれないか。」
「ああ、ハイマー商会の、ニール・ハイマー様だ。
私はバトラーのトーマス、護衛のエリックだ。」
「なんと、ハイマー商会の大旦那様じゃないか。
まぁ事情はおいおい聴くとしてだな、
どうだ、飲んでいくだろ?」
「ああ、もちろんだ。」
これにはエリックも喜んで、
「よろしくな、オーエン。」
「こちらこそ、よろしく頼むぜ。あんちゃん。」
そう言ってショットグラスにスコッチを注いだ。
今日はオーエンも一緒に飲んだ。
「ハイマー様に」と言って、グラスを掲げ、3人でスコッチを味わっていた。
この店の経営となると、いろいろと考えなければならない。
情報収集の拠点とはいえ、赤字が続くようなら閉店も余儀なくされる。
そうしたことも、おいおい手を付けていくことにしよう。
「そう言えば、『馬車馬』と言えばな、組合に預けられているかわいそうな馬の話を知っているか?」
「いいや、初耳だ。」
「2が月くらい前の話だ。
荷馬車を引いていた馬が組合に預けられて、馬車の持ち主の運送屋が引き取りに来ないって話だ。
噂じゃ主人は『葉っぱ』にやられて収容所送りになったんじゃないかって話だ。
ふつうは帰りの荷を積んで帰るんだけどな。
そんな話は一向にないってよ。」
「その馬はどうなるんだい?」
「引き取り手があればいいが、荷馬車が登録されているだろ?
持ち主の許可もなく動かせねぇんだよ。
このまま飼い殺しにするしかねぇんだと。
かわいそうにな。
組合の小僧が世話をしているって。
駄賃ももらえないのにな。」
トーマスはエリックと目を合わせた。
「その荷馬車の持ち主はわかるかい?」
「えっと、なんだったかな。
小僧に聞けばわかるだろ。
いつか駄賃をたんまりもらうって言っていたからな。」
トーマスは、これはもしやと心当たりを得た気分になった。
ほんの小さな手掛かりでもありがたい、調べてみる価値はあるように思えた。
それからは店の経営についてオーエンと話し込んでいた。
すっかり夜も更けてから、二人は帰路についた。



