壁や絵には特に異変はない。
「あれ、扉とかなんも無い感じ?んー?」
春は絵を見つめた。
やはり何も変わらない。
レイラはクスクスと笑う。
「ハル、後ろをご覧なさい。」
春が振り返るとそこには先程まであった長い廊下が消えていた。
代わりに石でできた分かれ道があった。
「うわぁ!なにこれ!え!右?左?どっち?!あたし決めていいこれ!?」
「やめときなさい、死ぬわよ。」
「え、まじ?無理ゲー運ゲーじゃん、大人しくしときまぁーす……」
「ここの警備は厳重だからね。大人しくしとくのが正解よ。私たちはこんなことしなくても入れるのだけれど、異物があるとこうなってしまうのよね。」
「異物?あたしのこと?ウケる、まっそうか!あはは!」
レイラは右に進む。
しかし、進んだ先にあったのはただの石造りの壁だった。
レイラが石の一部に触れ強く押す。
ガコッ
石が押し込まれ、それに連動するかのように周りの石一面も次々と押し込まれた。
押し込まれた石の壁は上へスライドした。
先に見えたのは赤い絨毯に茶色の壁。
またしても長い廊下である。
先程と違うのは窓があるということ。
天井にはシャンデリアが吊るされている。
「バルフが王に伝えたようですね。」
セイドが一言。
レイラは頷き、笑う。
「ハル、本当はねもっと複雑なのよ、けれどバルフが父にハルが来たことを伝えたみたい。すぐに通してくれるよう、結界を変えてくれたわ。さすがお父様!」
レイラは自身の両手をギュッと握り目を輝かせた。
レイラはセイドの方を向く。
「セイド、ハルは客間へ通すわ。」
「……」
セイドは無表情である。
廊下を遠く見つめる横顔はとても美しい。
レイラは早足に廊下を進む。
次第に部屋が幾つか見えてきた。
赤色の扉の前にセイドは立ち、ドアを開ける。
「どうぞ、姫様。」
春の方は全く見向きもせずにレイラに頭を下げた。
今まで出会ってきた魔物が良いヤツだった分
セイドとかいうやつがすごくムカつく!!!
春はモヤモヤを抱えながら部屋へ入った。
中は広く中央に大きな机とソファが2つ。
窓際にはベッドが1つ置いてあった。
春たちはソファに座るがセイドはレイラの横に立っていた。
「セイドさんも座ったらー?めっちゃソファふかふかなんだけど!ね、レイラちゃん。セイドさんはそういう?あれ?で座れないの?」
「……」
「ハル、セイドはそういう風に育てられたから。好きにさせてあげて。」
「……」
「そっかぁーセイドさん堅物ってやつだね!」
「なんだそれは。」
「うわっ!しゃべった!なんでもないでーす」
春はセイドから顔を背けた。
セイドは相変わらず無表情である。
「それでね、ハル。今後のことなんだけれど……セイドと共に魔女のところまで行って欲しいの。これからセイドとそれについては話すわ。できれば3日後くらいにはこの家を出てって……あぁそれまではこの部屋を使うといいわ」
「3日後かぁ……ってセイドさんと2人きりで?!あたしはまぁうんしょうがないけどセイドさんはいいの?!」
「……」
セイドは眉間を寄せる。
しかし無言のままだった。
「大丈夫よ、ハル。こう見えてもセイドは優しいのよ」
レイラは微笑みセイドを見た。
「姫様、俺はあなた様の言うことを聞くだけです。しかし、この人間には親切にできる気がしません。」
「セイドさん、そんな事言わないで仲良くしようよ〜!旅一緒に行く仲間なんだし!」
「五月蝿い」
セイドの圧に負ける春。
黙り込んで下を向いた。
「ハル、とりあえず着替えましょう。その服だと少し目立つわ。」
春は自分の服に目をやる。
たしかにピンクのパジャマを着てるのは春だけだろう。
魔物たちは荒れたローブを羽織っているだけだった。
セイドは部屋の棚へ行き服を一式持ってくる。
茶色いフード付きのローブと白いロングTシャツ。
長い白のスカート、靴はサンダルだった。
「えーだっさ!なにこれ!」
「ここでは庶民的な服だ。黙って着ろ。」

