無口な瞳に触れた日


しばらく歩きたどり着いたのは大きな門だった。
石でできているのだろうか冷たく威圧感がある。

門の両サイドには大きな烏の石像が2体。
ここに来る者をすべて追い返しそうな佇まいをしている。
烏の石像は今にも動き出しそうだ。


「あれ、あのカラス片方は白なんだ。アルビノってやつ?ま、たかが石像だし深い意味はないかインテリア的な?あはは、あ?!」



一瞬、白い烏の石像がこっちを見た気がした。


「気のせいだよねー……」



春はどんどん奥に進むレイラのあとを早足で追いかけた。
門を通り過ぎると城の扉がひとりでに開く。
薄暗い城の廊下がどこまでも続いてるように見えた。


「さ、お入りください。私の家よ。歓迎するわ。少し複雑だから離れないようにね」


そう言い城の中へ入る。

すると長い廊下の奥から白い物体が凄まじいスピードで近づいてきた。


「え!なに!白い…あ!レイラちゃん!!!」


白い物体は春に見向きもせずレイラに一直線。
そのままレイラを掴みその場に降り立った。


「レイラ様ぁ〜おかえりなさいませ!もぉ〜また下町に行っていたのですかぁ?ダメじゃないですか!僕さみしかったんですからねぇ!離れちゃ嫌です〜!レーイーラーさーまーん!」


「いやぁ!バルフ!やめて!客人の前よ!あなたさっき大人しく門番してたじゃない!なんで奥から来るのよ!」



白い魔物だ。
大きな白い羽に白髪。黄色い瞳。
レイラと同じく人間に近い見た目をしているが首や顔に羽根のような物が生えている。
白いスーツの似合う男の魔物だ。


白い魔物はレイラに頬擦りしている。
レイラは強く白い魔物を引き離そうとしている。


「レイラちゃん特別な魔物って……」



「あーいや違うのコイツじゃないわ!いやバルフもすごく特別なんだけどちょっとバカというか」



「バカとはなんですかレイラ様♡僕はバカではありません!いいえバカでもいいですけどレイラ様と魔王様を護る特別な騎士の1人です♡」


「いいから頬擦りやめてくれる?あと客人に自己紹介。さもないとセイドの名を呼ぶわよ」



「あーん♡それは勘弁です。レイラ様!僕の弟がいかに冷徹か知っているでしょ?」


残念イケメンもいいところである。
彼は姿勢をただし、春に足を向け敬礼をした。


「失礼した、客人。僕の名前はバルフ。この国を治める王の騎士であり、姫の直属の騎士でもある。ところで見るに人間だが…レイラ様、これはまた……」


「バルフ、この子をセイドに紹介して。今度こそは助けたいの。」


バルフは黄色く大きな目を見開きレイラへ歩み寄る。


「正気ですか!レイラ様!セイドは…」



バルフは春を横目に見る。
なんとも難しそうな顔をしているのが横からでもわかる。


レイラはバルフの目を真っ直ぐに見つめた。


「はぁ……分かりましたよ。知りませんからね。僕は。紹介したらノータッチですよ!レイラ様とセイドでやり取りしてくださいね!」



バルフは頬を膨らませ目を閉じた。


「あーやだやだ、僕人間は嫌いじゃないしレイラ様はもう言葉に表せないくらい大好きだけど…そういうとこどうにかしてほしいよね!自分で頼めば良くない?セイドだってそしたら一発OKだよ!なんで僕とセイドをわざわざ関わらせようとしてくるのかな!」


レイラは微笑み目を閉じた。


「いいじゃない、兄弟は仲が良い方がいいでしょう。セイド来なさい。」



レイラは静かに「セイド」を呼んだ。



しかし、数分待っても静かな暗い廊下のままだった。



「レイラちゃん、バルフさん。あの〜?そのーセイドって方は……」




「誰だ貴様」




ハッと振り返るとそこには黒い魔物。
バルフとは違う、ただならぬオーラを纏った大きな黒い羽の生えた男の魔物。

これがーセイドー




「あーセイド?僕はねやめとけってちゃーんと姫様に言ったんだよ?けど姫様どーしてもって言うからさあ……セイドも姫様になんか言ってあげてよ〜ね?」



セイドの黄色く鋭い瞳が春に向けられる。
冷たく、なんの感情も無い石のようだった。



「あ、セイドごめんね、僕もこの子のことなーんにも知らなくて……あ、自己紹介とかしてもらう?せっかくだし?姫様なんの話もしないですぐ呼んじゃうからさ〜ほら客人!僕とセイドに自己紹介!よろしくね」



「あ、えっと、えー?セイドさんもバルフさんもイケメンですね!あたし佐倉 春っていいます。よく分からなくてあの〜ははっちょっとガタイ良いイケメンに囲まれると緊張しちゃうなーなんて!」



「黙れ人間。俺は人間が大嫌いだ。」



春は目を丸くした。

まぁそうだよね。魔物だし……。
しかし、この魔物も顔が綺麗過ぎるなぁ。


「僕は言ったもんね!レイラ様〜既に無理だよぉ!セイド、レイラ様が人間を連れてるってことは概ねなんのことで呼ばれたか分かるでしょう?レイラ様からもお話してくださいよぉ」



レイラは軽くため息をつき、真剣な表情でセイドを見つめた。



「セイド。この子を…ハルを助けなさい。人間界へ戻す方法を探すのよ。」




セイドは黙ったままレイラを睨みつける。
バルフはやれやれと両手をあげた。



「姫様」




「拒否権はないわ。セイド。しばらくはバルフにここを任せるわ。あなたは頼りになるわ。」


セイドの言葉を遮りレイラは言う。
セイドは眉間にシワを寄せ春を見た。



「セイド〜レイラ様はこう言い始めたらもぉ無理だよ。黙って言うこと聞きなよ。今は僕が城を守るしレイラ様の面倒もみるしさ〜それにセイド、魔女の居場所、分かるんでしょ?」




「魔女もいるの?!この世界!すっごぉーい!魔法も使うのかな?!えーその魔女とか見てみたいんだけど!」




セイドは興奮する春を睨む。



「あぁようやく魔女の居場所が特定できました。思った以上に時間がかかってしまい申し訳なく思っています。」



レイラは手を挙げ大丈夫と制す。
セイドのレイラを見る目は優しかった。
姫様と王には従順か……?


レイラは優しく微笑みセイドを見つめる。


「バルフお父様に報告お願いしてもいいかしら?私はセイドとハルを部屋まで案内しなくてはならないの。よろしく頼むわ」



「承知しました!レイラ様♡僕に任せて!ハルさん、セイドはすごーく怖いけど、レイラ様いれば大人しいから頑張って☆」



バルフは大きな白い翼を広げ手を振りながら廊下の奥へと飛び立った。

レイラに案内され廊下の奥を進む。
壁には人間に近い魔物の写真が沢山並んでいた。

永遠に続きそうな廊下は案外早く行き止まりになった。
正面にある壁には1枚の大きな絵。
そこには王冠を身につけた巨大なドラゴン。
その横には大きな天使の羽を持つ女性。
そして真ん中にレイラ。

これがレイラの両親であることはすぐに分かった。



「やっばぁ!レイラちゃんのパパママめっちゃすごい!かっこいい!綺麗!」



「ありがとう。とても尊敬できる魔物よ。母は天使族なの。小さい村で育ったのだけれどとても気品ある強かな女性だわ。父は見ての通りよ。几帳面で律儀だけど少し臆病なところもあるわ、意外でしょう?」



自慢げに指を立て話すレイラ。

よく見ると壁に鍵穴がある。
セイドは鍵穴に尖った爪を入れた。

ガチャ……


鍵の開く音がした。