ナイショの妖精さん1

「うわ、和泉(いずみ)さんてば、またやってるよ~」

 前のほうから声がした。

「なになに~?」

「今度は、お弁当わすれたみたい」

 う……。しっかり、見られてる……。

 そっと目をやったら、あたしのビニールシートの向かいに、リンちゃんたちのグループがビニールシートをかためてた。

 花田市は田舎町だから、花田市立小学校には、六年が一クラスしかない。男子十一人、女子が十二人。で、その女子のうち九人が、今、同じところに密集してる。

 大人数。大所帯。わっさわさ。

「和泉さんてさ。こないだ、パジャマのズボンぬぐのわすれて、スカートの下にはいて学校来てたよね」

「おとといの四時間目なんて、和泉さんだけ、理科室来なかったじゃん。あれって、音楽の授業とかんちがいして、ひとりで音楽室で待ってたらしいよ」

「うわ、アホすぎ~。ウっケる~」

 グサグサグサ……。

 女子たちの声が、矢みたいに、あたしの胸につき刺さってくる。

 それはさ、ぜんぶ本当の話なんだけど……。

 でも……でも、あたしだって、好きでやってるわけじゃないのに……。


「ね、中条(なかじょう)君。和泉さんたら、今度はお弁当わすれて、お昼抜きだって~」

 リンちゃんが、ツインテールをゆらして、となりを見あげた。

 そしたら、女子たちの真ん中で片ひざを立てて座った男子が、石膏(せっこう)みたいに(かた)そうなほおを、ニヤっとゆがませた。

「またかよ、和泉のヤツ。やっぱ、アホっ子だな。頭のネジが五、六本抜けてんじゃん? 一度、工場に持ってって、修理してもらったほうがよくねぇ?」

 中条の言葉に、まわりの九人の女子たち、どっと大笑い。

 ……ヒドすぎ……。

 なによ。自分のほうが、ロボットみたいに冷たい顔して……。

 正面切ってにらんだら、やり返されそうで怖いから、うつむいて。あたしは、ぶつぶつつぶやく。

 女子の中に、ひとりだけ男子。

 だからって、男友だちがいないわけじゃない。
 むしろ、男子は自分たちのボスを、女子たちに取られてるっていう感覚だと思う。

 中条は、学年で一番背が高くて、足が速くて、スポーツならなんでもできる。

 おまけに、とがったあご。鼻筋の通ったキレイな顔立ち。
 目は琥珀(こはく)色をしていて、髪も染めてもないのに琥珀色で、光があたると透きとおっちゃって。

 うわさだと、お父さんがイギリス人なんだとか。

 五年生の春だったかな。女子たちの間で恋愛話が流行った。そしたらいつの間にか、みんなして、「中条君好き~」になってた。

 以来。女子たちは、中条のあとをぞろぞろついてまわってる。

「……だけど、性格悪かったら、イケメン台無しじゃん」