ナイショの妖精さん1

「や、やめろっ!」

 横から、パシッと手をつかまれる。

「……え?」

 見あげたら、中条の視線は、あたしが手をのばそうとしたほうに向いていた。
 石膏みたいな横顔が、いつもよりも青白い。あたしの腕をつかむ硬い腕が、カタカタ小さく震えてる。

 中条にも……見えてる……?

「……と、飛んでく」

 かすれた声に、あたしはまた花のほうを見た。

 さっきまでいた妖精がいない。

 花畑の先に目をこらしたら、トンボの羽が見えた。赤紫色の花を一輪持って、空を遠ざかっていく。

「行っちゃうっ!」

 あたしは大またで追いかけ出した。

「おい、和泉っ!」

 背中で中条の足音が近づいてくる。

「追ってどうすんだよっ!? 」

「だってっ!」

 縄みたいな花の茎に、足をとられて、何度も転びそうになる。
 でもすぐに、顔を起こして、走りだす。

 妖精はいるっ!

 本当にいるんだっ!

 心臓がピストンみたいにふくらんでしぼんで、ピンク色の希望を、胸に手に足に行きわたらせる。

 やっぱり、あの記憶は、ただの夢じゃないっ!