トンボじゃないっ!
頭に金色の髪がはえていて、しなやかな白い体に細い人の手足がついている。
「ひ、人っ!? 」
さけんだとたん、トンボ人間は、パッと飛びあがった。
またたく間に、花畑の中にまぎれていく。
「ま、待ってっ!」
花畑に右足をつっこんで、「イタっ!」って、足をあげた。
この花、キレイに見えて、葉っぱの部分がごわっごわ。 マツみたいにチクチクとがった葉がいっぱいついてる。
トンボ人間はもう、お花畑を小さくなってく。
あたしは、大またで花畑に踏み込んだ。
ショートパンツからむきだしの足に、チクチクの葉っぱがあたる。だけどもう、痛さなんて気にならない。
――だいじょうぶ。きみの背中には羽がある――
大昔にきいたはずの声が、低く、深く、胸の底からよみがえってくる。
だれに言われたんだろう……?
どこで……?
なんで……?
わからない。
記憶の背景は真っ白。言った人の顔も、霧に包まれたみたいに、よく見えない。
覚えているのは、胸にしみわたるやさしい男の人の声だけ。
――その羽を、きみ自身が信じられなくなってしまったら、きみの羽は抜けてしまうだろう。羽があることをわすれないで。そうすれば、いつかきっと、きみは空を飛んでいけるから――
