ナイショの妖精さん1


 トンボじゃないっ!

 頭に金色の髪がはえていて、しなやかな白い体に細い人の手足がついている。

「ひ、人っ!? 」

 さけんだとたん、トンボ人間は、パッと飛びあがった。
 またたく間に、花畑の中にまぎれていく。

「ま、待ってっ!」

 花畑に右足をつっこんで、「イタっ!」って、足をあげた。

 この花、キレイに見えて、葉っぱの部分がごわっごわ。 マツみたいにチクチクとがった葉がいっぱいついてる。

 トンボ人間はもう、お花畑を小さくなってく。

 あたしは、大またで花畑に踏み込んだ。

 ショートパンツからむきだしの足に、チクチクの葉っぱがあたる。だけどもう、痛さなんて気にならない。


――だいじょうぶ。きみの背中には羽がある――


 大昔にきいたはずの声が、低く、深く、胸の底からよみがえってくる。

 だれに言われたんだろう……?

 どこで……?

 なんで……?

 わからない。

 記憶の背景は真っ白。言った人の顔も、霧に包まれたみたいに、よく見えない。
 
 覚えているのは、胸にしみわたるやさしい男の人の声だけ。


――その羽を、きみ自身が信じられなくなってしまったら、きみの羽は抜けてしまうだろう。羽があることをわすれないで。そうすれば、いつかきっと、きみは空を飛んでいけるから――