「うわぁ、出た〜松村課長代理の負けん気」
「あの華奢な身体の何処に凶暴さを宿してるんだか」

 同僚らの嘆きと電話のコールが遠くで聞こえ、無言で振り向くとどちらも止む。

「監査は全面的に協力しますが、いかんせん不慣れなので不手際はご容赦下さい」
「いや、私も失礼しました。まずは靴を履き替えましょうか」

 側の椅子を促される。確かに片方のヒールが折れた状態で腕組みしても格好がつかない。

「ハイヒールをお召しになるんですね」
「えぇ、まぁ、低身長がコンプレックで埋もれてしまわないよう履いてます」

 今回はストラップ付きを選ぶ。七センチヒールは視界を広げてくれるはずだ。

「コンプレックスをコンプレックスと言えるのは一種の強さですよ。私は明かせません」
「あら、榊原室長にコンプレックスなんてあるんです?」

 履き替えを済ませ、顔を上げる。正面へ腰掛けた人を伺うため目を凝らす。
 室長のルックスは女子社員達が騒ぐのも納得がいく。均整の取れた目鼻立ちから本心を汲み取るのは難しそうだけれども。

「私は頑固で融通が利かない印象を持たれがちですが、内面は意外とナイーブなのですよ」
「……ここは笑うところですか?」
 切り返しに室長の眉が動く。
(この人、眉が感情のアンテナみたい)