「とぼけないで下さいよ〜買収されちゃうとか？　うちの会社」
「とぼけてなんてない。本当に知らないの」
「またまた〜」
「ほら、お喋りしてないで仕事に戻りなさい」

　背中をついて回られ、ファイルで遮り追い払う。
　会田君の口にする不安は最近の社内を見ていれば噂レベルで収まらない。ちょうど手にした会議資料によると事業縮小や撤退を余儀なくされ、われわれ営業部は新規の顧客獲得が急務だろう。

（ーーと言っても）
　思考を巡らせ着席する。気が重い、足もダルい。あぁ、そうか、パンプスを壊してしまったんだっけ。
　幸い、ここには代えのパンプスが沢山ある。サンプル棚を物色してみようか。

　シンデレラカンパニーは女性靴の販売製造を行い、主力商品はパンプス。働く女性を足元から支えるという理念を掲げ、市場シェアも高い。

　しかし、最近じゃパンプスよりスニーカーを履く人が多いのは言わずもがな。疲れにくく動きやすい、そのうえ健康志向の現代において後者が選ばれやすい。カジュアルビズという言葉も浸透してきた。

　カツカツ、ヒールを鳴らすキャリアウーマンのイメージは薄れつつある。