二時間目の矢部先生は、なんだかおかしかった。歩くとよろけて、顔が赤くて、呼吸が荒い。

 保健の授業で習った熱中症を思い出して隣を見やると夕崎くんと目が合った。
 同じことを考えている気がする。私は先生に声をかけた。

「先生、大丈夫ですか? 熱中症なんじゃ…」

 そう言うと、先生は笑ってこたえる。

「大丈夫よぉ、ちょっと暑いだけ。風に当たれば涼しくなる…から……」

 言いながら、窓に近づいて顔を突き出した。

 その途端、 ジャラッ…………ガシャンッ と音が響く。

「えっ……えぇーーー!!」

 今度は先生の絶叫が響く。

「なんか落ちましたよ」

 夕崎くんがそう言うと、顔面蒼白な先生が振り返った。

「鍵が…胸ポケットに入れていた鍵が、落ちたの……」

「は!?」
「うそっ」

 私たちも叫ばずにはいられなかった。