二日目、補習棟へ登校すると、案の定エアコンは壊れたままだった。

 「他の教室も、現校舎も空いてないみたいなのよぉ…」

 と、悲しそうに言った先生の一言で二日目の補習が始まった。
 窓を開けた程度ではどうしようもない暑さが体を襲う。

 私の予想は外れやすいと言っても、さすがに「エアコンは直らない」という予想は外れないだろうと思い、暑さ対策は万全にしてきた。

 「クソッ、暑すぎだろ…」

 一時間目が終わった10分休憩、廊下の方が涼しく感じるので、2人で避難している。矢部先生は二時間目の準備だとかで、一度職員室に戻っていった。
 補習棟には他にも補習を受けている人がいるが、今日二時間目以降の授業があるのは二年数学だけ、つまり私たちだけだ。

 「あと二時間たったら帰れるよ。あと少し、がんばろう?」

 すごく暑そうにしている夕崎くんに声をかけると、なぜか悔しげにこっちを向いた。

「なんでお前はそんなに平気な顔してんだよ…!」

「え? 水分と塩分をとってるし…まだ朝、だよ?」

 たしかに暑いけど、冷たいお茶を飲めば、そこまで暑くは感じない。お茶を飲めば……

「もしかして夕崎くん、水筒持ってない…?」

 そう聞くと、夕崎くんは目をそらした。

 図星……かな。

 夕崎くんは苦手だけど、この2日間で反応は素直なことを発見した。思っていたより怖くはなかったし、何より困っている人を放っておけない。私はリュックをガサゴソあさった。

「これ、どうぞ…まだ開けてないし、冷えてるよ。夕崎くん、飲んで」

 そう言って麦茶のペットボトルを渡すと、夕崎くんは目を見開いた。心なしか、顔がさっきより赤くなっている。熱中症が心配だ…!
 少しの静寂のあと、彼は口を開く。

 「いや、いらねーし。お前が飲む分無くなるだろ」

 「私の分は心配しないで! ほら、こんなにあるから!」

 保冷機能のあるリュックに詰まったたくさんの暑さ対策グッズを見せる。
 お茶以外にも、スポーツドリンクや塩タブレット、冷たいタオルなどがギュウギュウに詰まったそれを見て、夕崎くんはプハッと吹き出した。

「どんだけ持ってきてんだよ…!」

 笑い転げる彼を見て、思わず私も笑みがこぼれる。夕崎くんの笑いが一通り収まると、深呼吸して私に目を合わせてきた。

「あの、ありがとな…」

「い、いえ…」

すごく真剣な顔お礼を言われて驚く。この人がお礼を言ったのなんて、早く帰れることが決まった時の「サンキュー」くらいだ。
 天変地異の前触れを感じ取ったのか、私の心臓はドキドキと音をたてる。

 夕崎くんは麦茶を一気に半分くらい飲み干すと、「二時間目始まるぞ」と言って教室へ入っていった。