それから5分ほど経って8時15分になったとき、チャイムと共に先生がドタバタ入ってきた。
「ごめんねぇ2人とも。補習のシステムが難しくって、ギリギリになってしまったよ」
今年度から赴任してきた矢部先生は、なんだか危なっかしい。数学の授業が終わるたび、先生の心配をする話題で教室は持ちきりになるほどだ。
「補習のシステムってなんすか」
夕崎くんの質問に、矢部先生はおや、と目を丸くする。
「2人とも補習は初めてかい? この夏期補習ではねぇ、数年前に逃亡者が多発して、内側に鍵穴があるものへと出入り口のドアが変更されたんだって。鍵は中で授業をする担当教師が持つ仕組みなんだ」
逃亡阻止ってことか… 部屋の作りを変えさせるような逃亡をした先輩がいるってこと…?
そんなことを考えていると、矢部先生は鍵穴に鍵をさしてガチャンと鍵をかけた。
「君たちは逃げないだろうけど、ルールだからねぇ。ああ、トイレに行きたいときは開けていいことになっているよ。 さあ、夏期補習を始めます」
ぬるっと授業が始まって、私はあわててペンを取った。

