ええっと、『数学科の補習は201教室で行います』…っと
一学期に渡されたプリントを読みながら補習棟の廊下を歩く。補習棟行きを告げられた時に受け取ったプリントを見ていると、あの日のことを鮮明に思い出してしまう。
夏休みの一週間前、7月20日の月曜日のことを。
その日の朝はめずらしく、叶汰くんからメッセージが届いた。叶汰くんは私の彼氏……だった人。
「今日の放課後、話したいことがあるんだ。旧校舎側の門のところに来て」
その時はまだ付き合っていたし、仲も良くて『学年一お似合いのカップル』なんて言われていたから、別れるなんて疑いもしなかった。サッカー部で忙しい叶汰くんにひさしぶりに会えることが楽しみで、最高の一日になる予感がしたんだ。
でも、私の予感は見事に大はずれ。1時間目が始まる直前に補習棟行きが発表されて、ショックで授業もうわの空になっていたら先生に怒られて。挙句の果てには放課後の「旧校舎――つまり補習棟――側の門のところ」で叶汰くんに言われた言葉。
「ごめん、由良。サッカーに集中したいんだ。僕たち別れよう」
叶汰くんは私のどんな説得にも折れず、私たちは別れることになった。
その日の夜に友達から届いたメッセージで叶汰くんがサッカー部のマネージャーの女子と付き合い始めたと知ったとき、私はしばらく恋愛はしないと決めたんだ。
一連の最悪な一日を思い出して私はため息をつく。手元のプリントに印刷された「夏期補習のお知らせ」の文字は、あの日が記録されたバーコードのようだ。
これ以上そのバーコードを読み込まないよう、プリントを二つ折りにして、四つ折りにして、怨念を込めてもう一度折って、廊下に置かれたゴミ箱へと投げ捨てた。

