幸い、窓から1、2メートルのところに大きな木が生えている。

「あそこに飛び移ってからゆっくり降りたら出られるかも!夕崎くん、私行ってくる!」

 そう言うと窓枠に足をかけ、グッと力を込めた。

「待て出野! その木は腐ってる!」

「え?」

 飛び出した瞬間に届いた声は間に合わない。つかんだ枝はバキッと折れて、私ごと落下し始めた。

「出野…!」

 私を呼ぶ夕崎くんの声が遠くなる。

 このままでは地面に打ち付けられる……わけでは無い。

 私は木の幹をトンッと蹴ると、一回転してスピードを殺し、着地!

 窓からこちらを見下ろす夕崎くんに「大丈夫だよ!助けを呼んでくる!」と告げ、現校舎へと急いだ。

 叶汰くんと付き合っていた頃、サッカーがうまい彼とつり合うよう、スポーツをしたかった。でもビビっとくるものがない。
 それなら予想が外れて大変な目に遭いやすい私が危険を回避できるよう、護身術を取得したんだ。

「役に立ってよかった…!」

 走りながらつぶやいて、ふふっと笑った。