期末テストが終わった日の放課後。
 教室の窓から射す光が、いつもよりちょっとやさしく感じた。

 「はい、打ち上げっ!」

 採子が唐突に言い出す。

 「打ち上げって、何の?」

 私が聞くと、採子は満面の笑みで手を広げた。

 「恋の証明の、だよ。」

 その瞬間、私の心拍数が上昇モードに突入したのは言うまでもない。

 ***

 その日、私と計典くんは映画館にいた。

 でも、映画の内容はあんまり頭に入ってこなかった。

 キャラメルポップコーンの香りと、隣にいる彼の存在感が、
 ただただ強かったから。

 「アクション映画って言ったけど、これ、思ったより恋愛要素あるね。」

 私がこっそり言うと、計典くんは少しだけ目をそらした。

 「……君が好きそうだと思って、これにした。」

 その一言で、たぶん私の内心の角度、150度くらいになった。
 顔が真っ赤になったの、上映中で本当によかった。


 映画館を出ると、まだ夕方の光が残っていて、
 街は柔らかい照明に包まれていた。

 私たちは公園に立ち寄った。
 並んで座ったベンチの影が、まるで合同な図形みたいに重なっているのが見えた。

 「今日の私たち、合同だったかな。」

 ふと、そう言ってみた。

 計典くんは、考えるように空を見てから、ゆっくり言った。

 「……少なくとも、ずれてはなかったと思う。」

 その返しが、どうしようもなく計典くんらしくて、私は笑った。

 「また、証明してね。」

 私は小さな声でそう続けた。

 彼はこっちを見て、ほんの少しだけ笑って──
 何も言わずに、そっと私の手に触れた。

 指先と指先が、ぴたりと重なった。

 それはきっと、今日の合同条件の最後のひとつ。
 “対応する辺が一致している”という、小さな接点。

 どこまでも円の上にいたはずの私たちが、
 今、ゆっくりと目の前に降りてきた気がした。

 角度も、長さも、心の向きも、
 全部が一致するわけじゃないけど、だからこそ──

 この恋は、
 確かに今、成立していた。

 (△私と計典くん ≡ △これからの二人)

 証明、完了。