僕らのあの海

SIDE 七海茜

私は早朝、騒がしい声で目を覚ました。
下のリビングに降りると朝ごはんのいい匂いが部屋中に(ただよ)っている。

「おはよー!」
「「おはよー!」」

朝起きて「おはよう」と声を出せば必ず「おはよう」という言葉が返ってくる。
それが、(たま)らなく嬉しい。

お姉ちゃん、お兄ちゃん、妹、弟。
その真ん中にいる私。
お母さんも居て、お父さんも居る。
美味しいご飯も、寝床もある。
これ以上の幸せはないだろうな。


私は、美味しい朝ご飯を食べた後直ぐに陽紡と夏目がいる《基地(きち)》へと向かう。
今日は、皆んなで目一杯遊びたい!


「やっほー!」

大きな声でそう言えば、

「七海〜っ!」
「…、どうも」

返してくれる友達がいる。
それだけで、気分がぐーーーんっ!って上がって最高の気分になるんだ!

「あれ、せんせーは?」

《基地》の中を見渡してみたけれど、せんせーの姿が見当たらない。

「まだ、来てないよ」

いつもの事かも…、笑
あの人は猫みたいに気まぐれですぐどこかへ行ってしまう。
前は、そんな事なかったのに。

「じゃあ、それまで!海で泳ごー!」

そう言うと、陽紡は嬉そうに目を輝かせて

「いく…っ!」

ってソファーから立ち上がる。
夏目は逃げるようにベランダへ行って猫を撫で始めた。釣れないヤツ〜。

「陽紡、行こっ!」

そう言って陽紡を引っ張って海へと出た。
空は相変わらず晴れていて、日が肌を照りつける。最近雨が降ったのはいつだろうか。

「きゃはーっ!」

私は上に着ていた薄手の上着を脱ぎ捨ててそのまま海へ飛び込む。海の中はひんやりとしていて心地いい。
水面から顔を出す。
陽紡も覚悟を決めて海の中へ飛び込んで来た。
すると、まるで人魚のようにすいすいと波を掻き分けて泳いでいる。私も負けじと泳いでみたけれど、陽紡は私とどんどん距離を離して行った。

「陽紡、泳ぐの上手!人魚みたい!」

水面から顔を出して言うと、陽紡も顔を出して嬉そうに笑っている。その笑顔は、今まで見た陽紡の中で一番輝いていた。

上を見ると、ベランダから私たちを見ている夏目が居る。

「なつめ〜っ!」

夏目に向かって手を振ると、夏目は小さく手を振り返してくれた。


大分泳いた後、海から出た。
陽紡の泳いだ後の姿は本当に綺麗だった。
額についた水滴に日が反射してキラキラとしている。

「楽しかった〜っ!」

持って来ていたタオルで髪の毛を拭きながら扉を開けた。

「…、泳ぐの好きだね」

ソファーに座って本を読んでいるせんせーが言う。思い出せば海を泳いでない季節はないかも。

「えへへぇ、だって趣味だもん!」

せんせーは薄い笑みを浮かべながら本を閉じた。
夏目は変わらずベランダで猫を撫でている。

「今日なにするのー?」
「うーん…、まあ聞き込みかなぁ…」

最近ずっと島の中を歩いてばっかりだ。
宝石について聞いてばかり。

「雨龍石…?見つけに行こうよ〜!」
「急がば回れ。確定の場所を見つけてからね」
「そんなの面白くないよ〜!」

そんな事を言いながらそばにあった椅子にどさりと座った。
陽紡はタオルを頭に置いたまませんせーの隣に座っている。夏目も、ベランダから帰ってきて椅子に座った。夏目の膝の上に猫もいる。

「でも…、宝石をひたすらに探し回るより
大体場所を絞り出す方がいいと思う…」

夏目もそう言って…。
今すぐにでも冒険みたいに仲間たちと島を練り歩いてばばーん!!っと雨龍石見つけたい…。

「ちぇ〜…っ」
「地道に行こう、時間はたくさんあるからさ」

陽紡がそう言うとなんだか心の中にあった不貞腐れた心がすぅっと消えていく気がした。

私はいつも真実を見てきた。
友人や家族からの愛を正面で受け止めてそれを他人に渡す。全ての人に優しくし、怒る事なく諭す事に奔走して。
だけどそれは時に悪になることを知った。
間違った道へ行こうとする者を叱る事。
それも優しさだと私は知った。