SIDE 夏目
僕は、陽紡の家にいる猫と戯れていた。
白い毛がふさふさとしていて、僕のことをじっとジト目で見ている。
窓枠に座って尻尾を振っている猫。
僕も、こんな風に自由に過ごしてみたい。
「じゃあ、まずなにからやる?」
七海が指揮を執る。
僕は、猫を撫でながら耳を傾けた。
「まずは、話を聞くことからじゃないかな?」
きっと陽紡と七海が中心となるだろう。
僕はそういうのには向いていない。
すると、突然腕を引っ張られた。
「行くよ、夏目!」
そう言って七海は僕を家の外へと連れ出す。
正直、このまま此処で猫を撫でていたかった。
けれど、それを言うときっと怒られてしまうから。
僕らは暑い日の下を歩く。
僕はずっと日陰にそって歩いた。
しばらく歩いているけれど、人の気配がない。
やっぱり多くの人が犠牲になったようだ。
周りを見渡せば、崩壊している屋根や倒壊した家。
七海と佐藤先生はそれを見慣れたように、日常とでもいいたげに歩く。
陽紡はただ無表情で前をみながら歩いていた。
山の奥へ入ると一軒の小屋のような家に着いた。
家の外には壊れかけの自転車や井戸。
僕がいた東京にはないものがたくさんある。
「高じぃ〜!」
七海は躊躇なく小屋に向かって声を出した。
その声の大きさに肩をびくつかせると陽紡がくすりと僕の方を見て笑う。
僕はなんだか恥ずかしくて下を向いた。
「おぉ、七海か」
小屋の中から出てきたのは背の高いおじいさん。
全部白髪なのに背が伸びていて威圧感があった。
でも、穏やかな表情をしている。
「見て!友達!」
七海が僕たちを指差した。
僕はそれに背筋が伸びる。
おじいさんは、僕のことを怪しむように見た。
陽紡は動じずに堂々と立っている。
「あんた…、都会の身か」
おじいさんが僕のことを見ながら低い声で尋ねた
僕は、その威圧感に押し潰されそうになりながら頷く。
「まぁまぁ!この人は高橋じいちゃん!
背の高い高橋じいちゃんで高じぃ!」
威圧感を切り裂くように七海が話した。
怒られなくて良かったと胸を撫で下ろす。
都会出身だとバレないようにしよ…。
小屋の中に入ると、畳の部屋が広がっていた。
畳の独特の香りと煤が鼻腔へと入る。
なんだか鼻がむずむずとするけれど、我慢だ。
七海、陽紡、僕、佐藤先生の順で座布団に座る。
高じぃという人は僕たちにお茶を出してくれた。
そのお茶を陽紡は不思議そうに眺めている。
「それで、今日はどうしたんや?」
おじいさんがお茶を一口飲んだ後口を開いた。
すると、包み隠さずに七海が話す。
「海の宝石を探しに行くの!」
すると、一瞬おじいさんの顔が曇った。
それもそうだろうな。
苦い歴史がある宝石。
それを探しに行くのだから。
「雨龍石の事か…」
「それ、雨龍石!」
すると、おじいさんは考えるように黙り込んだ。
七海は答えを待つように目を輝かせている。
陽紡はどんな考えを持っているのか上の空だ。
佐藤先生は俯いている。
僕はどうしたらいいのか分からずに黙って俯くしか無かった。
「やめておけ」
しばらく考え込んだ後おじいさんは腕を組みながら真剣な眼差しで七海を見た。
「あの津波はただの波やねぇ“水龍様”や」
その言葉に陽紡の体が微量に動いた気がする。
“水龍様”。
聞いたことがないが、きっとこの島に伝わるものなのだろう。
「水龍様…?」
七海がそう尋ねると、おじいさんは“水龍様”がなにかを簡単に説明してくれた。
水龍様とは、この島に代々伝わる神。
何百年も前にこの島に舞い降りた。
食料危機からこの島を救ったのも、水龍様という神らしい。
そして、2年前の津波のこと。
あれは津波じゃないとおじいさんは言い切った。
「儂は見たんじゃ…、大きな龍の姿を」
それを語るおじいさんの顔は青ざめていて、その表情だけで水龍様を怯えているのが分かる。
でも、なぜ水龍様はこの島を突然襲ったのだろうか。
「いいか、水龍様の気に触れてはいかん」
おじいさんはキツく言い切る。
七海は納得がいかないように頬を膨らませた。
僕は、気になって仕方がない。
「なんで…、水龍様はこの島を襲ったんですか…」
おじいさんは僕のことを一瞬睨んだような気がしたけれど話してくれた。
「…、知らん。神の気まぐれや…」
そういうと佐藤先生の息を吐く音が聞こえた。
佐藤先生は悔しそうに唇を噛み締めている。
もしかしたら…。
でも…。
「水龍様にも、雨龍石にも近づくな。いいな?」
おじいさんは再度忠告をした。
僕らはどうすることも出来なくてまた俯く。
この島に来てからそうだ。
僕らは結局なにも出来なくて縮こまるしかない。
それが、子供の運命なのだから。
仕方ない…。
それでも、それでも…。
「…その宝石はどこにあるの?」
黙って話を聞いていた陽紡が突然話した。
尋ねる陽紡の表情は真剣そのもので、まるで雨龍石を本気で探しているみたい。
「…行く気か?」
おじいさんが静かに呟く。
それには怒気が含まれていた。
けれど、陽紡は動じずにおじいさんをまっすぐに見ている。
「…どこにあるかは知らんのじゃ…。
どっかの祠の中じゃろうな」
しばらく陽紡と目線を交わした後観念したように言った。
陽紡は静かに頷く。
それが僕にはなにかを決心したように見えた。
「あんたの顔、どっかで見たことあるんや…」
おじいさんは陽紡の顔を見た後にそう呟いた。
僕は陽紡の顔を見てもなにも思い出せない。
僕たちはおじいさんの小屋から出た後、夕日に向かって歩いた。
もうすぐ、日が沈む。
みんなで立ち止まって夕日を眺めた。
僕ら、初めて会ったはずなのに…。
僕はいつだって真実を唱えた。
正しい道を選び,道を誤らないように。
一つ道が外れてしまうと全てが崩れてしまう気がした。
けれど陽紡たちといるとそれも正解だと思える。
たとえ真実の道から外れたとしてもまたそこから見つければいいか。
本来僕はそうゆう道を欲していたな。
僕は、陽紡の家にいる猫と戯れていた。
白い毛がふさふさとしていて、僕のことをじっとジト目で見ている。
窓枠に座って尻尾を振っている猫。
僕も、こんな風に自由に過ごしてみたい。
「じゃあ、まずなにからやる?」
七海が指揮を執る。
僕は、猫を撫でながら耳を傾けた。
「まずは、話を聞くことからじゃないかな?」
きっと陽紡と七海が中心となるだろう。
僕はそういうのには向いていない。
すると、突然腕を引っ張られた。
「行くよ、夏目!」
そう言って七海は僕を家の外へと連れ出す。
正直、このまま此処で猫を撫でていたかった。
けれど、それを言うときっと怒られてしまうから。
僕らは暑い日の下を歩く。
僕はずっと日陰にそって歩いた。
しばらく歩いているけれど、人の気配がない。
やっぱり多くの人が犠牲になったようだ。
周りを見渡せば、崩壊している屋根や倒壊した家。
七海と佐藤先生はそれを見慣れたように、日常とでもいいたげに歩く。
陽紡はただ無表情で前をみながら歩いていた。
山の奥へ入ると一軒の小屋のような家に着いた。
家の外には壊れかけの自転車や井戸。
僕がいた東京にはないものがたくさんある。
「高じぃ〜!」
七海は躊躇なく小屋に向かって声を出した。
その声の大きさに肩をびくつかせると陽紡がくすりと僕の方を見て笑う。
僕はなんだか恥ずかしくて下を向いた。
「おぉ、七海か」
小屋の中から出てきたのは背の高いおじいさん。
全部白髪なのに背が伸びていて威圧感があった。
でも、穏やかな表情をしている。
「見て!友達!」
七海が僕たちを指差した。
僕はそれに背筋が伸びる。
おじいさんは、僕のことを怪しむように見た。
陽紡は動じずに堂々と立っている。
「あんた…、都会の身か」
おじいさんが僕のことを見ながら低い声で尋ねた
僕は、その威圧感に押し潰されそうになりながら頷く。
「まぁまぁ!この人は高橋じいちゃん!
背の高い高橋じいちゃんで高じぃ!」
威圧感を切り裂くように七海が話した。
怒られなくて良かったと胸を撫で下ろす。
都会出身だとバレないようにしよ…。
小屋の中に入ると、畳の部屋が広がっていた。
畳の独特の香りと煤が鼻腔へと入る。
なんだか鼻がむずむずとするけれど、我慢だ。
七海、陽紡、僕、佐藤先生の順で座布団に座る。
高じぃという人は僕たちにお茶を出してくれた。
そのお茶を陽紡は不思議そうに眺めている。
「それで、今日はどうしたんや?」
おじいさんがお茶を一口飲んだ後口を開いた。
すると、包み隠さずに七海が話す。
「海の宝石を探しに行くの!」
すると、一瞬おじいさんの顔が曇った。
それもそうだろうな。
苦い歴史がある宝石。
それを探しに行くのだから。
「雨龍石の事か…」
「それ、雨龍石!」
すると、おじいさんは考えるように黙り込んだ。
七海は答えを待つように目を輝かせている。
陽紡はどんな考えを持っているのか上の空だ。
佐藤先生は俯いている。
僕はどうしたらいいのか分からずに黙って俯くしか無かった。
「やめておけ」
しばらく考え込んだ後おじいさんは腕を組みながら真剣な眼差しで七海を見た。
「あの津波はただの波やねぇ“水龍様”や」
その言葉に陽紡の体が微量に動いた気がする。
“水龍様”。
聞いたことがないが、きっとこの島に伝わるものなのだろう。
「水龍様…?」
七海がそう尋ねると、おじいさんは“水龍様”がなにかを簡単に説明してくれた。
水龍様とは、この島に代々伝わる神。
何百年も前にこの島に舞い降りた。
食料危機からこの島を救ったのも、水龍様という神らしい。
そして、2年前の津波のこと。
あれは津波じゃないとおじいさんは言い切った。
「儂は見たんじゃ…、大きな龍の姿を」
それを語るおじいさんの顔は青ざめていて、その表情だけで水龍様を怯えているのが分かる。
でも、なぜ水龍様はこの島を突然襲ったのだろうか。
「いいか、水龍様の気に触れてはいかん」
おじいさんはキツく言い切る。
七海は納得がいかないように頬を膨らませた。
僕は、気になって仕方がない。
「なんで…、水龍様はこの島を襲ったんですか…」
おじいさんは僕のことを一瞬睨んだような気がしたけれど話してくれた。
「…、知らん。神の気まぐれや…」
そういうと佐藤先生の息を吐く音が聞こえた。
佐藤先生は悔しそうに唇を噛み締めている。
もしかしたら…。
でも…。
「水龍様にも、雨龍石にも近づくな。いいな?」
おじいさんは再度忠告をした。
僕らはどうすることも出来なくてまた俯く。
この島に来てからそうだ。
僕らは結局なにも出来なくて縮こまるしかない。
それが、子供の運命なのだから。
仕方ない…。
それでも、それでも…。
「…その宝石はどこにあるの?」
黙って話を聞いていた陽紡が突然話した。
尋ねる陽紡の表情は真剣そのもので、まるで雨龍石を本気で探しているみたい。
「…行く気か?」
おじいさんが静かに呟く。
それには怒気が含まれていた。
けれど、陽紡は動じずにおじいさんをまっすぐに見ている。
「…どこにあるかは知らんのじゃ…。
どっかの祠の中じゃろうな」
しばらく陽紡と目線を交わした後観念したように言った。
陽紡は静かに頷く。
それが僕にはなにかを決心したように見えた。
「あんたの顔、どっかで見たことあるんや…」
おじいさんは陽紡の顔を見た後にそう呟いた。
僕は陽紡の顔を見てもなにも思い出せない。
僕たちはおじいさんの小屋から出た後、夕日に向かって歩いた。
もうすぐ、日が沈む。
みんなで立ち止まって夕日を眺めた。
僕ら、初めて会ったはずなのに…。
僕はいつだって真実を唱えた。
正しい道を選び,道を誤らないように。
一つ道が外れてしまうと全てが崩れてしまう気がした。
けれど陽紡たちといるとそれも正解だと思える。
たとえ真実の道から外れたとしてもまたそこから見つければいいか。
本来僕はそうゆう道を欲していたな。


