そこまで言い切ったあと、彼はふっとため息をついた。
言葉が途切れ、部屋に沈黙が落ちる。
私は彼のシャツの裾をぎゅっと握りしめ、震える声を絞り出した。
「……断ったら、私のこと、嫌いになりますか? 別れを、考える?」
言ってしまった瞬間、胸の奥がきゅっと痛んだ。
本当に怖いのは、痛みでも、知らないことでもなく。
ーーもしも拒んだせいで、彼が離れていってしまうこと。
その恐れを、私はようやく正直に口にしていた。
彼はしばらく黙って私を見つめ、それから小さく苦笑した。
「……馬鹿だな」
その声に、心臓が大きく跳ねる。
私の手にそっと彼の手が重ねられた。
「そんな理由で嫌いになんかなるわけない。……別れる理由にもならない」
真剣な眼差しで告げられるその言葉は、真っ直ぐに胸に落ちていく。
「俺は君と一緒にいたいから付き合ってる。身体が理由じゃない」
瞬間、熱いものが視界を滲ませた。
ずっと心のどこかで恐れていたことを、はっきり否定してもらえた。
けれど彼は小さく息を呑んで、続けた。
「……でも正直に言えば、欲はある。君を抱きたいと思うのは、止められない」
息が詰まった。
でもそのまま続いた言葉が、すぐに胸を満たしていく。
「だけど、それと“君を失いたくない”は別の話だ。どんなにきつくても、そっちを裏切ることは絶対にしない」
堪えていたものが一気に崩れ、私は彼の手を握り返した。
ーーあぁ、この人なら大丈夫だ。
震えていた心が、ようやく温かく包まれていくのを感じた。



