牧師の息子のエリート医師は、歳下医学生に理性が効かないほど夢中です。(旧題:桜吹雪が舞う夜に)



再びキーボードを叩き始めた酒井の手元を見ながら、俺は残っていたペットボトルの中の水分を口に運んだ。
静かな室内にカタカタと打鍵の音だけが響く。

「……あの」
不意に酒井が手を止めてこちらを見上げた。
「御崎先生って……学生の中で、特に気になる子とか……いらっしゃいますか?」

妙な問いに、思わず眉を寄せる。
「なんでそんなことを?」

酒井は気まずそうに笑って、視線を逸らした。
「いや……噂、聞いたんです。循環器の御崎先生が、一年の女の子と一緒にいるのを何度か見たって」

胸の奥が一瞬で熱を帯びた。
「……」

「もしかして、その……中野桜さんですか?僕、救急救命サークルで一緒なんですけど、社会人と付き合ってるって、そう言ってたから。彼女」

その名を聞いた瞬間、喉がわずかに詰まる。
気づかれないようにそっとペットボトルを置き、短く答える。
「……昔担当してた患者の縁で、少しな。関係ない話だ」

それ以上、余計な言葉を出さないようにした。
だが、心臓が静かに早鐘を打つのを抑えられなかった。

酒井は納得したようなしないような表情で、再び画面に向き直った。
ーー触れさせない方がいい。
それが、自分自身を守るためでもあると分かっていた。