桜吹雪が舞う夜に


だから、彼に抱きしめられた時、本当に混乱した。
頭が真っ白になって、どうしていいか分からなかった。

「……日向さん……待って。どうして……?」
気づけば、震える声で問いかけていた。

腕の中で、彼の体温が揺るがない。
日向さんは少し間を置き、低く吐き出すように答えた。

「……もう、抑えられなかった」

その声は、震えている気がした。

「好きなんだ。お前のことが」

彼の一言に、胸が大きく跳ねる。
理屈も年齢差も、大人と子供の境界も、一瞬で吹き飛んでしまった。

(……嬉しい。嬉しい……!)

溢れ出す喜びに、足が震える。
呼吸の仕方を忘れそうになりながら、ただ彼の胸に顔を押し付けるしかなかった。

ーーずっと夢みたいに思ってきた瞬間が、ついに訪れてしまったのだ。
その事実に、ただ心ごと飲み込まれていった。