日が暮れかける道を2人でぎこちなくも手を繋ぎながら歩いた。観光客で賑わう通りを抜け、桜が「どこで夕ご飯にしますか?」と何気なく問いかけてきた。
「もう決めてある」
「えっ……?」
驚いたように見上げる視線に、思わず小さく笑みがこぼれる。
「予約しておいた。落ち着いて食べられるところだ。……嫌いなものとか、ないよな?」
桜はしばし言葉を失い、頬を赤くしながら小さく首を振った。
「……ないです。でも……すごい。ちゃんと、考えてくれてたんですね」
「当たり前だろ」
わざとそっけなく答えながらも、胸の奥にくすぐったい熱が広がる。
学生の彼女に“頼りなさ”ではなく、“安心”を与えたかった。大人として。恋人として。
予約していたのは、駅近くの古民家を改装した小さなフレンチレストラン。格子戸を開けると、柔らかな灯りが迎えてくれる。
席に案内され、着ていたジャケットを預けるとき、桜はまだどこか落ち着かない様子で周囲を見回していた。
「……なんだか、特別な日に来る場所みたいですね」
「特別な日だろ」
一瞬、視線が交わる。桜の頬がさらに赤くなる。
その反応に、こちらまで心臓が跳ね上がった。
ーーやっぱり、俺はこの人を喜ばせたい。そう強く思った。


