桜吹雪が舞う夜に



その数分後。

友人が苦しそうに咳き込み、酸素マスクをずらしてしまったときだった。
慌てる私の横で、彼はすぐに手を伸ばし、落ち着いた声で言った。

「大丈夫。深呼吸して。ほら、ゆっくり」

その声音は驚くほど柔らかく、友人の小さな手を支えながら微かに笑った。

その笑顔を見た瞬間、胸の奥が熱くなった。
ーーさっきまで冷たいと思った人が、こんなふうに優しく笑うなんて。

初めて触れたその一面が、心のどこかに焼きついて離れなかった。