「……分かりました」
そう答えかけて、胸の奥に言葉が引っかかった。
「……ただ、一つだけ聞いてもいいですか」
向坂先生が目を細める。
「何かな?」
「俺をどういうルートに載せようとしてるのかだけ……説明してもらってもいいですか。
前から言ってる通り、俺は正直、臨床だけで十分です。
研究なんて片手間でいい」
静かに、それでも強い調子で言い切った。
向坂先生は少し驚いたように目を瞬かせたあと、愉快そうに笑みを浮かべた。
「やっと聞いてくれたね」
その声は、挑発でもあり、待っていたと言わんばかりでもあった。
「君を――准教授までは必ず引き上げるよ。
そこから先は……本人次第だね」
思わず眉をひそめる。
「……俺次第、ですか」
「そう。海外で発表の場数を踏むか、論文を積み重ねるか、指導者として人を動かすか。
どの道を選ぶにせよ、“准教授”の肩書きがあれば、可能性はぐんと広がる」
にこやかな表情のまま、言葉に揺るぎはない。
「……だから、安心して努力してほしい。僕がレールは敷いておくから」
その声音に、感謝と反発と、言いようのない重さが同時にのしかかってきた。



