「……それとも、庇われるのはそんなに不愉快?」
向坂先生の笑みは柔らかいまま、声だけが鋭かった。
胸の奥で言葉が渦巻いた。
悔しい、情けない、でも――庇われなければ自分の立場は危うい。
その事実が痛いほど分かっている。
唇を噛みしめ、ようやく絞り出した。
「……いえ。感謝しています」
自分でも嫌になるほど形式ばった答えだった。
頭を下げた瞬間、向坂先生の視線がじっと突き刺さる。
「うん、その顔。やっぱり君は面白い」
軽やかに笑ったあと、ふと思い出したように続ける。
「あ、そうだ。海外学会の件――引き受けてくれるよね?」
さらりとした口調。
まるで先ほどのやり取りが布石だったかのように。
「……海外学会、ですか」
「そう。今度シカゴである循環器の。
最初は別の候補に振ろうかと思ってたけど、やっぱり君が適任だ。
僕が庇ってあげた分、ちゃんと結果で返してくれないとね?」
にこやかに微笑むその顔に、胸の奥がずしりと重くなる。
庇われ、守られ、その代わりに課せられる重荷。
逃げ場は、なかった。



