湯気の立つカップが、テーブルに二つ並んだ。
漂うコーヒーの香りが、雪の冷たさを忘れさせるように温かい。
「どうぞ」
日向さんが差し出すカップを両手で受け取り、そっと口をつける。
熱い液体が喉を通っていくのに合わせて、張り詰めていた心も少しずつ緩んでいく気がした。
向かいに座った彼は、両肘を膝にのせ、しばらく視線を落として黙っていた。
部屋を満たすのは時計の針の音と、二人の呼吸だけ。
「……ごめん」
ようやく彼が口を開いた。
その声は、先ほどよりもずっと小さくて弱々しい。
「忙しいとか、言い訳にしかならないよな。
でも、気づけば……どう言えばいいか分からなくなってた」
コーヒーの湯気が揺れる。
私の胸も、同じように揺れていた。
「……私も、日向さんにちゃんと聞きたいことがあったんです」
勇気を振り絞って言葉を重ねる。
「でも、怖くて。聞いたら、壊れてしまう気がして」
彼が顔を上げ、真剣な瞳で私を見た。
その視線に、また涙が滲んだ。



