牧師の息子のエリート医師は、歳下医学生に理性が効かないほど夢中です。(旧題:桜吹雪が舞う夜に)



大学病院の人事なんて、結局はエゴの塊だ。
誰を上に据えるかも、誰を切り捨てるかも、すべては派閥と利害で決まる。

……俺が今、どうにかやれているのは、ただ向坂教授に気に入ってもらえているからだ。
あの人の後ろ盾がなければ、講義担当のポストなんて初めからなかったし、助教の地位だってなかった。

それは分かっている。
助けられているのは事実だ。
感謝すべきだとも頭では理解している。

だが――どうしても好きにはなれない。

計算高く、常に何手も先を見て駒を動かす。
その笑顔の裏に何を考えているのか、最後まで掴ませない。
ああいう人間には、一生なれないし、なりたいとも思わない。

それでも、俺はその庇護の下でしか立てていない。
その事実が、何よりも苦しかった。


(……桜には絶対言えない)

彼女に話したところで、ただ余計に心配をかけるだけだ。
俺がどう扱われているかなんて、知らないまま笑っていてほしい。

そう思うほどに、胸の奥に苦いものが沈んでいく。

(……本当は、抱きしめたい。抱きたい。
 でもこんな状況じゃ、彼女を大切にできず、雑に扱ってしまいそうで怖い)

感謝と苛立ちと自己嫌悪と――どうしようもない孤独感だけが残っていた。