心のモヤモヤが晴れなかったある夜。
試験勉強で遅くまで大学に残り、ようやく帰ろうと校舎を出たときだった。
暗い道に、やたら高級そうな赤い外車が滑り込むように停まった。
「……?」
思わず足を止めた私に、窓がするすると下がる。
「桜ちゃん。今終わり?」
軽やかな声で、ハンドルを握っていたのは水瀬先生だった。
「家、どこ? 良かったら送っていってあげるわ」
気安い調子に笑みを浮かべるその顔に、私は一瞬答えを詰まらせる。
日向さんに嫌な顔されないかな、というかこんな高そうな車乗ってもいいのかな、そんな考えが一瞬のうちに逡巡した。



