桜吹雪が舞う夜に



額を寄せたまま、桜の手を握り続けていると、布団の中で小さく指が動いた。

「……日向さん?」

かすれた声。
まぶたはまだ重く閉じられていて、夢と現の境目で揺れているようだった。

「……あぁ、俺だ」
できるだけ穏やかに、安心させるように答える。

桜は小さく首を傾けて、子供みたいに無邪気な顔で続けた。
「……ごめんなさい。迷惑……かけてばかりで」

胸が痛む。
そんなこと、一度だって思ったことはないのに。

「……違う。迷惑なんかじゃない」
声に強さがにじんでしまう。
「俺にとって君は……」
言いかけて、喉が詰まる。

彼女を守りたい気持ちと、自由を奪ってしまう恐怖と。
両方が絡み合って、言葉が最後まで続かない。

「……おやすみ、桜」
結局そう告げて、握っていた手に唇を落とした。

桜の寝息はすぐに整って、再び深い眠りに沈んでいった。
暗い部屋でただひとり、俺だけが眠れないまま朝を待つことになるのだと分かっていた。