桜吹雪が舞う夜に




「……俺は、桜を守りたいだけなんだ」
日向さんの声は穏やかで、優しいのに。
どうしてだろう、胸の奥ではずっとざわめきが広がっていった。

守られてばかり。
それって、同じ場所に立たせてもらえないってことじゃないの?

「……私だって、守られるだけの子供じゃないです」
気づけば声が少し強くなっていた。

日向さんはわずかに目を伏せ、黙り込む。
(肯定してくれない……)
その沈黙が、鋭い刃物のように胸を裂いた。

「私、ちゃんと勉強してます。努力だってしてます。
……追いつきたいんです。日向さんに」

「……だから、その必要はないんだ」
低い声。どこまでも静かで、拒絶に近い響き。

「どうしてそんなこと言うんですか……!」
思わず叫んでしまった。
涙で視界が滲む。

(どうしてわかってくれないの。私がどれだけ必死に追いかけてるか。どれだけ一緒にいたいと思ってるか)

でも、日向さんはただ悲しそうに笑っただけだった。
「桜……わかってほしい。俺は、君に俺みたいにはなってほしくないんだ」

……その言葉は、優しさの形をした拒絶だった。
守りたいという思いが、私には壁にしか思えなかった。

胸の奥に、小さなひび割れが走る音がした。