桜吹雪が舞う夜に


「……それから、あとこれも」

俺はポケットに忍ばせていた小さな銀色の鍵を取り出すと、桜の手のひらにそっと握らせた。

桜が目を丸くするのがわかる。
「えっ……?」

俺は視線を逸らし、言葉を選ぶように低く続けた。
「家の合鍵だ。いつでも……別に連絡なんかしなくても、来てくれていい」

本当は“会いたい時は必ず来てほしい”と口にしたかった。
けれど、それを言えば重たくなる。だからあえて軽く聞こえるようにした。

「俺のシフト、今度から送るようにする。……だから無理のないときに来ればいい」

自分でも不器用な言い方だと思う。
それでも、これ以上ないくらいの信頼を示しているつもりだった。